狸の嫁入り

「お兄ちゃん、ケガしてるの?」
 山の中のこと。
 僕の少し下、十歳くらいだろう、それくらいの少女がうずくまっている僕を見ていた。
 獣の耳に、もふもふとした大きな尻尾。
 狸。
「あぁ、だけど小さい傷だから大丈」
「駄目、じっとしてて」
 有無を言わさず彼女は立ち上がろうとする僕を制止する。
「んもぉ、バイキンとか入ってきたらどうするのさー!」
 背負っている薬箱を下ろし、あさりはじめる。
「それに、血の匂いに誘われて魔物娘が寄ってきても知らないよ!」
「ご、ごめん」
 すごい怒られてる。
 かなりフランクに話しかけられているが、初対面である。むしろお前が寄ってきた魔物娘なんじゃないの?
「あった。はい、これ塗って」
 取り出したのは丸い容器。開けると軟膏が詰まっている。
「………」
 魔物娘、しかも狸から貰ったものを素直に使うほど馬鹿ではない。
 指で掬って匂いを嗅いでみる。
「あ、疑ってるね!」
 頬を膨らませ、狸がこちらを睨んでくる。
 どうやら、塗らない方が面倒くさいことになりそうだ。さっさと塗ってしまおう。
「うおぉ……すげえ」
 足の傷に塗ってみると、塗ったそばから傷が治っていく。まるで魔法のようだ。
「ふふふ、わっち特製の傷薬なのだ!」
 胸を張ってしたり顔で言う。
「ありがとう」
「えへへ〜」
「……」
 にぱーっと笑う狸。
 悔しいことに、可愛いと思ってしまった。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんはなんでこんなところに来たの?」
「ん………そうだな、御百度参りってところかな?」
「何かお願いしに来たの?」
「うん。母さんが病気でさ、早く治りますようにって」
「ふぅ〜ん。でも、この先の神社に神様はいないよ?」
「え?」
「あんまり古くて神様も逃げ出しちゃったみたい」
「………え?本当なの?」
「うん」
「そんな………」
 頭にズン、と衝撃が走ったようだった。
 御百度参りは無駄だったってことか……
 それじゃあ、母さんの病気は……
「じゃあ、わっちに任せてよ!」
 ぽん、と胸を叩き、狸は再び薬箱をあさる。
 取り出したのは小さな瓶。中には透明な液体が入っている。
「これ。これなら病気なんてすぐ治っちゃうよ」
「いいのか?」
「うん、でも一つだけ条件があるのっ!」

「わっちのおむこさんになってくれないかな?」


 母さんに薬を飲ませるとすぐに元気になった。
 石像のように青白かった顔も、すぐに暖かい血が通っていつもの笑顔に戻っていった。
 でも、素直には喜べなかった。
 おむこさん………つまり、あの狸と結婚して夫婦になれ、ということ。
 僕は嫌じゃない。あの子は僕の傷も治してくれたし、母さんの病気も治してくれた。とても良い子だと思う。なによりも可愛かったし。
 だけど、そんなこと、元気になったばかりの母さんに言えるわけがない。余計な心配事を増やしたくない。
「……あの子には悪いけども、おむこさんは無理かもな……」
 断ろう。もっと別のことで恩返しをしよう。
 明日、また山に登って彼女に会って、よく話し合おう。
 そうすることにした。


「おーい!狸ー!」
 昨日と同じくらいの時間に、僕は山に登った。
「おーい!」
 昨日、僕が転んだ辺りまでやってくる。しかし、彼女はそこにはいなかった。
「おーーい!」
 叫んでももちろん返事はない。
「〜〜♪」
 だけれども、歌が聞こえてきた。きっと彼女だ。
 僕は、歌が聞こえる方向に走り出す。茂みをかき分け、一心不乱に進む。
 すると、開けた場所に出た。
 目に入ってくるのは澄んだ川、

 そして、裸で水浴びをする彼女の姿。

「ぁ──────」
 慌てて彼女は胸と股を隠す。
「ご、ごめん!」
 同じように慌てて僕は目を隠す。
「ごめん!本当、ごめん!」
 とにかく、僕は謝る。
 顔が熱い。目は塞いでいても、塞いでいる指に彼女の裸体が映る。すごく、綺麗な身体だった。
「ごめん!」
「…………ね、ねぇ、目、開けていいよ」
 服を着終わったのだろうか、彼女は恥ずかしそうに言う。
 指をどけてみると、まだすっぽんぽんの彼女が目の前まで迫っていた。
「!?」
「いいよ……見て」
 もじもじと、身体を揺らす彼女。僕の頭は見るな見るな、と命令するが、それでも、彼女の身体から目が離せない。
「お兄ちゃんになら………大丈夫」
 同年代の女子よりも、少し膨らんで丸っこい胸。狸という割には、あまり大きくないお腹。そして………
「ちゅ」
「ん!?」
 いきなり、キスされる。
「ね、ねぇ………気持ちいいこと……しちゃわない?」
 僕は、ゆっくりと頷いてしまった。


「んちゅ、くちゅ、んっ、ろぉ?」
 彼女は、僕のチンコを頬張る。
「うぁ、ぁっ、う、うん、きもちいい」
「へへ〜、ちゅ〜、ちゅぱ、ぶちゅ」
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