その女の子はいつも僕を見ていた。
僕は山の麓にある村で生まれ育った。
毎年冬になると雪がたくさん降っていた。
その年は特にたくさん雪が降っていたように思う。確か僕が十歳になる頃だったはずだ。
村の他の子供たちが用事で遊べないということで僕は暇を持て余して一人で雪だるまを作っていた。
そんなとき、彼女は木陰で僕のことをじっと見つめていたのだ。
僕と同じくらいの歳で、とても可憐な少女。肌は青白く、今にも周りの雪に溶け込んで消えてなくなってしまいそうだった。
そして驚くことに、彼女は着物を着ていた。彼女と同じくらい純白な着物。だが、その日も雪がびゅうびゅうと吹雪いていて、着物で外に出るのは厳しい空模様だ。にもかかわらず、彼女は袂をぱたぱたとたなびかせて立っていた。
「……………」
気がつけば僕も、雪玉を転がすのも忘れて彼女を見つめていた。そのうちに彼女は俯いて、慌てて向こうへと駆けていってしまった。
「なんだったんだろう……あの子」
とても不思議な女の子だった。まるで人間ではないような……
「あれ?」
ふと気がつく。彼女が駆けていった先には何もないということに。
そっちの方向には、民家など一軒もない。村の外だ。
あるのは、山だけである………
僕は彼女が去った後も、ただただそこに立っていた。
雪だるまは結局、完成しなかった。
次の日も彼女は僕を見つめていた。
その日僕は、あえて一人で遊んでいた。友達と遊ぶ気は最初からなかった。
また、彼女が、あの可憐な女の子がまた来ると思ったからだ。
誰にも、彼女を見られたくなかったからだ。
そして、その予想は当たって彼女はまた来たのだった。昨日と同じ真っ白な着物を着て、昨日と同じ木陰に。
僕は今度こそ声をかけようと思って近づいてみたが、すぐに逃げられてしまった。
その次の日も彼女は来た。今度は遠くから手を振ってみた。
しかし、彼女は俯いて走り去ってしまう。
その次の日も、その次の次の日も、彼女はすぐに逃げてしまう。
何日か経って、僕は段々と我慢できなくなっていった。
彼女に話しかけたい。彼女の白い肌に触れたい……
僕は彼女に話しかけようと彼女に気づかれないように背後に回った。
彼女はいつものように木陰にいた。僕はそっと近づいて彼女の肩を叩く。
とても、冷たかった。
「きゃっ!」
彼女は驚いて振り向く。そして、僕を見た瞬間に、青白い頬を赤く染め、いつものように俯いてしまった。
「………」
「………」
「………ねぇ、君の名前は?」
「………細……薄氷細(うすらい ささめ)です」
「ねぇ、ささめちゃん。一緒に遊ぼうよ」
「う………ごめん、この服じゃちょっと………」
それを言ったら外に出ていること自体が不可解なのだが。その日も吹雪いていたはずだ。
「じゃ、じゃあ!僕の家で遊ば「それよりも!」
彼女は僕の言葉を慌てて遮る。少し息が荒くなっていて、目を合わせてくれない。緊張していたのだろうか?
「そ、そそそれよりも、良いところをしってるの……そこに行かない?」
純粋無垢な僕はそれが何を意味しているのかに気がつかず、ただ頷いて彼女についていくのだった。
「ここだよ」
「へぇ〜」
着いたのは小さな木造の小屋。正直に言うと、僕の家で遊んだ方がいい気がした。
中に入っても、ほとんど外と変わらない寒さだった。
「うぅ………」
僕は震えていた。
「…………………」
しかし、彼女は終始もじもじとしていた。青ざめていく僕とは対称的に、彼女はどんどん赤く、紅くなっていく。耳まで真っ赤だった。
「ね、ねぇ、キミ」
しばらく沈黙が続いていたが、彼女が僕に話しかけてきた。
「キミには……好きな人っているかな………?」
ドキリとした。
「え、ええ………いや、いないけども」
僕は嘘をついてしまった。本当は好きな人がいるのに。
目の前の可憐な少女に心の底から惚れているのに。
「そ、そう………じゃあさ『ちゅー』ってしたことあるかな?」
「………………」
どくん、と心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
「ねぇ……したことあるかな?」
「………………」
彼女が段々近づいてくる。
「したこと……ない?」
「………………」
すぐ目の前に彼女の顔が迫ってくる。
「…………………なら」
「しちゃお」
耳元でそう囁かれた。
彼女の冷たい息が、声が、僕の耳を、アタマの中を擽る。
今にも心臓が破裂しそうだった。
気がつくと僕は。
彼女の唇を奪っていた。
「んっ……ちゅ」
彼女の冷たい舌が僕の口の中を掻き回す。
僕は彼女の身体を強く抱きしめていた。何故か、急にそうしたくなったのだ。
「ちゅっ……ちゅっ」
彼女も僕を抱きしめる。その抱擁と接吻は長い時間続い
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