バフォメットと変態探索者

 儂はバフォメットである。名前はまだ無い。
 真名はあるが人間に発音できるものではない。
 だが、発音できる通り名ならある。
 『ダンジョンマスター』。わかりやすいだろ?
 その名の通り、儂はダンジョンに籠もっている。
 無論、ラスボスじゃ。ドヤァ
 今まで誰にも敗れたことはない。
 いや、なかった、と言うべきか。


「ドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエ」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
 何故なら──ついさっき、儂は常識外の変態に負けてしまったからだ。


「あ、う」
「御主人様」
 どうやら、気を失っていたようだ。目の前に大きなおっぱいが見える。
 メイドのショゴスのものだ。どうやら儂は膝枕されているらしい。
「む〜」プニプニ
 妬ましい。いくらスライム種だからってデカすぎるだろう。突っついてやる。えいっ、えいっ。
「御主人様、そろそろ起きあがってください」
「…………」
 デカ乳を見せられるのは不愉快だが、こいつの膝枕は気持ちがいい。
 儂は渋々立ち上がる。
「って、何じゃこりゃ!?」
 自分の体を見てみると。
 大量の矢が刺さっていた。
「御主人様、どうやら憶えていないようで」
「いや、だって、速くて見えなかったし」
「御主人様はあの探索者に、超高速でボウガンの矢を大量に撃ち込まれたのです」
「ボウガンって連射がきくものだっけ!?」
 そんな、あれって矢もセットしなければならないだろう?
 儂は矢を一本一本抜いていく。
「ダンジョンルールが無かったら死んでたかもしれんのぉ」
 魔物娘の人間界進出に伴い、ダンジョンルールというものが設けられた。
 役所に申請すれば、いくらダメージを食らっても実際には死なないHP制になる、といったように人間界の『ゲーム』というものの感覚に近くなるのだ。
「いててて」
 まぁ、痛いっちゃあ痛いのだが。
「しかし………あの少年は何だったんだ?」
「データによりますと……名前はマイムロ。年齢十八歳。職業は『走者(ランナー)』とのことです」
 ショゴスは、自信の一部をコンピューターに変えて、情報を引き出している。
「『走者』?何だそれは」
「ダンジョンクリアのタイムを如何に縮めるか、という職業のようです」
「え…………儂のダンジョン、そんな軽いノリでクリアされたの?」
「本人にとっては重要なことのようです。さっきも『10分32秒07……まだ更新できるな』と大層悔しそうに言っていましたし」
「そうなのか…………いや待て待て。まさか、あいつまた来るの?」
「そうですね…………むむむ、なかなかに面白いデータがありましたよ」
 ショゴスは作業を終え、コンピューターを身体の中にしまう。
「えふん───彼の何回も繰り返してそのダンジョンを隅々まで蹂躙していく…………そんな姿から付いた彼の二つ名が………」

「『ダンジョンマスター』、だ、そうですよ」


「………………」
『侵入者発見!侵入者発見!』
「来たか…………」
 ショゴスの言うとおり、再び来てしまったようだ。
 10分……いや、8分位で来るとみるべきか……
 『ダンジョンマスター』の名にかけて、負けるわけにはいかない!
「……………でもやっぱり怖いな」
 昨日は本当に何が起こったかわからなかった。
 高速でジャンプ→急降下を繰り返し、超スピードで近づかれたと思った瞬間にはHP0にされていた。
 何を言っているのかわからないと思うが、儂にもわからん。
 本当に申し訳ない。
「今回は私も全力でサポートします」
 儂と深くリンクし、高性能な鎧となったショゴスは脳内に直接語りかけてくる。
「しかし、どうも緊張しているようですね」
「うむ………」
「よく聞いてください、御主人様。
 その恐怖を克服する方法を教えます。
 まず『高速で上下移動する変態』という言葉を思い浮かべてください。
 そして、唱えるのです。『存在しない』と」
「何その根性論!」
「魔物娘の脳内には恐怖を司る領域が存在します。そこに私の一部が侵入して、御主人様の脳内にあるマイムロ様への恐怖を削除いたしました」
「マスターを勝手に改造するな!」

 ガゴン!
「残念だったな、(雑談は)そこまでだ」

「うわあ!」
 速い早い速い!まだ5分しか経ってない!
「くっ─────ふ、ふはは、いいだろう!」
 正直に言って、儂は今恐怖している(結局ショゴスは何もしていないのか……)。だが、精一杯、胸を張って虚勢を張る。
「儂は『ダンジョンマスター』のバフォメット!さぁ、戦いを始めようじゃないか!」
「デヤァ!」
 マイムロは儂に向かって剣を振り下ろす
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