昼下がり。
「だぁっ! ちくしょー! 今の落としてくれないと困るんだよ!」
今日はアイミン関連のイベントも、そして恋人である春深ちゃんとの予定も、あと仕事も無い完全オフの日である。
僕は自宅であるアパートの一室に籠もり、酒を飲みながらひたすらにゲームをしていた。イラストを描くという選択肢もあったのだが、なんだか気持ちも筆も調子に乗らないため却下。
時間めいっぱい使い、進めるところまで進める。
「くっ……えぇと、必要なのはあと十三個……まだ長いな」
そこまでレアなはずではないドロップ品、しかし僕のガバ運ではなかなか落ちない。必然的に周回回数はかさみ、次第に作業になっていく。
ピンポーン
あと必要な素材が五個というところで、インターホンが鳴る。
「ん……なんだ? 今日なんかあったけか」
アルコールでややぼんやりする頭で心当たりを探す。しかし、思いつく届け物やわざわざここまで遊びに来るような友達は見つからない。
友達が少ないわけでは決してない。
それはそうと訪れたのは新聞とか宗教の勧誘であろうか。一応、どんな人が来たのか確認だけはしておこう。ふらふらと立ち上がり、インターホンのモニターをチェック。
『………………』
何故だかわからないが、若干恥ずかしがっている感じの春深ちゃんがいた。
「ちょちょちょちょーーーいっ!! な、なんで!? なんでここに!?」
慌ててドアを開けるとやはりそこに春深ちゃんはいた。オフショルダーのトップスにやたらと短いスカート。あまりファッションに聡くない僕だ。こんなファッショナブルな幻影など作れるはずはない。
幻影だったらよかったんだけどもね。
「あ、あの、暇で、ヒトミンさんと遊びたいなー……なんて」
「ま、まぁ、そっちの方も聞きたかったんだけどもさ、それよりもどうやって僕の住所特定したのさ!」
「んー……ちょっと笹木さんの力も借りてヒトミンさんのツイートから……」
「ネット社会超怖ぇーーーーっ!!」
ならあれか、やろうと思えば他の人からも特定されちゃうのか。
ていうか、あの映画館でのやり取り、あれはそういうことだったのか!
今度から写真とかの投稿はやめよう。あと行った店の名前とかも──そして笹木さんに厳重注意もしておこう。
「あの……中入っていいですか?」
そういやそうだ。アパートの玄関口で話すのはまずい。もし誰かに見られたら──それも住人に見られてしまったら変な噂が流れてしまうかもしれない。それは僕のためにも彼女のためにもならないだろう。
「わ、わかった……どうぞ、汚いけども」
「お邪魔しまーす」
あぁ、入れてしまった。ものすごい犯罪臭がする。
女の子をうちにあげたことなんて一回もなかったのに……何を間違えたらJKを迎え入れることになるのだろうか。
「……」
「……」
……で、JKと何しろってんだよ。
もちろん、さっきまでやっていたゲームは中断──したのはいいんだが、やることがない。おかげで彼女と正座で向かい合うだけという超絶気まずい空気が流れることになった。
「……」
「……」
一応、あのデート以降僕たちは恋人関係ということになるのだけれども……なんか逆にこういう気まずい雰囲気になることが多くなった気がする。やはり友達と恋人では接し方はまるで違う……とお互い思いこんでいるようだ。
正直に言うと、気楽な楽しさでいえば友達以上恋人未満の頃の方が上だった。今は今で別のドキドキがあるのだが。
なんだか、今日の服ゆったりしてて、彼女が身じろぐ度にいろいろと際どい感じになるし。
「……」
「……アイミンのポスター、すごいですね」
と、気まずくて仕方がなかった沈黙を破ってくれたのは春深ちゃんだった。実にやりづらそうに話を振ってくる。だがおかげできっかけはできた。
「……で、でしょでしょっ! いやぁ、特にさこのファーストシングルの時の特典ポスター! 今じゃかなりレアものなんだよ……まだ初々しさがあって今とは違う可愛らしさがあるよねぇ」
そこらじゅうに張ってあるポスターのうち特にお気に入りのものを指す。少しオタクっぽい早口で言ってそうな感じになってしまっているが、あの沈黙よりは断然マシだ。
「やっぱり、アイミン好きなんですね……ヒトミンさん」
「うんうん。ほんと、初めて見たときはすごかったよ……まるで雷に打たれたようにビビビッてきてさ、あれがまさに一目惚れだったんだろうね」
言ってハッと気がつく。僕は一体何をしているんだ。恋人の目の前で同じ年頃で同じ種族のアイドルについて熱く語る──それはもう一種の浮気みたいなものなのではないか?
「うふふ」
が、しかし彼女は穏やかに笑っていた。その赤い瞳はギラギラとではなく、優しい光を伴っていた。
それもそうか、まずも
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