ここK町は今もなお昔ながらのジパングを残している町である───といえば聞こえはいいが、要はただ無駄に古い町なだけなのである。
ただ古いだけならいいのだけれども、その古い雰囲気のせいで『その手の輩』が湧き、よくないことが起こってしまっていたりする。
はっきり言って、この町に良いところなんて一つもない。
しかしだからといって────
「────────え?」
これまでの人生。こんな町に住んできたけども。
まさか頭上にいきなりクノイチが降ってくるだなんて考えたことがなかった。
ましてや、そいつに目を付けられるだなんて────
「うおおおおおっ!」
わかってる。受け止めるべきだとは思う。
でも僕は一般人だ。ただのひょろっこい一般大学生だ。特別なタフネスなど一切持ち合わせていない。故に、頭上から物が降ってきたら本能的に避けてしまうのだ。
だから責めないでほしい。
ごッ!
鈍い音が響く。多分頭からいった。確実に昇天まっしぐらのポイント。
「あわわわ、あわあわ」
もしかしたら魔物娘特有の耐久力で持ちこたえているのでは、ぱっと起き上がって何事もなく帰って行くのでは、と期待したがそんなことはなく、いつまで経ってもぐったりとしたままだった。
「も、もしもし?」
「……………………………………………」
返事がないので屍だ。
「ああああああ」
嘘でしょ。女の子が降ってくるイベントはさ、完全にギャグ的展開か壮大な冒険の始まりだって相場が決まっているだろうが。こんな生々しいイベントではないはずだ。
とりあえず僕は震える手で携帯を取り出す。119で救急車を呼ぶ。
そして………逃げてしまおう。
救急車が来るまで死体と一緒にいるなんて勘弁だ。僕は帰らせてもらう────
─────後から思えば、その決断は最初にするべきだったのだ。
「おい」
「ひいぃぃぃっ!」
がしり、と足を掴まれる。
一体誰に………もちろん決まっている。
「こんなか弱い女の子をほったらかして逃げようだなんて、いい度胸してるじゃないの」
クノイチが………目覚めたのだ。
地獄から湧きあがるような声で僕を責め立てながら、ぎゅっと僕の足を締め付ける。
「い、いだだだだ!ご、ごごごごめんなさい!」
「痛かったなぁ………すごい痛かったなぁ………君が今感じている百倍くらいは痛かったなぁ。受け止めてくれたら痛くなかったかもしれないのに」
「えぇぇ…………」
受け止めたら死ぬのは僕だろうし、いきなり飛んできたのはそっちなのだ。
そこを責められるいわれはないはず。
でも………
「言い訳無用だよ」
この場合、僕に発言権はあってないようなものなのだ。だって僕が加害者でなくとも、彼女が被害者なのは揺るがない事実なのだから。
「魔物の恨みは恐ろしいぞ………ということで」
「ひっ」
彼女はゆっくり、ゆ〜っくりと腰の刀を引き抜く。その猛獣の瞳にも似た凶暴な煌めきを僕に見せつけるように。
「相応のむく「ぅああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
殺られるっ!
そうでなくとも足の二、三本は持って行かれる!
そう確信した僕は。
「うわああああああああああ!!ああああああああああ!!」
「え、ちょっ」
皮がはがれそうなほどの勢いで彼女の手から足を引き抜く。
そして、そのままの勢いで脱兎のごとく走り出す。
「ああああああああ!!」
大丈夫だ。家は近い。
なんとか逃げられますように────
その願いが届いたのかその日はそれ以降彼女の姿を見ることはなかった。
次の朝である。
「ふぁ〜あ」
少し不安定な精神状態で寝たせいかあまり疲れがとれていない。変な夢を見てしまった気もするし。
「今日は休もうかな」
このまま大学に向かっても何の意味もないだろう。おとなしく家でゆっくりしていよう。
僕は少し頭をすっきりさせるためにココアを飲むことにした。少し痛む足を動かし、キッチンへと向かった。
「おはよう」
「おはよー」
…………………………
「え?」
「え?とはなんだえ?とは」
「まさか私の顔を忘れた訳じゃないよな?」
「…………………」
確か、僕が見た悪夢もこんなんじゃなかったかな。
昨日遭遇したクノイチが何故か裸エプロンで家の中にいるという感じの光景。
「ではこれからよろしくな」
「……………」
そんな光景に言葉なんて出るはずもなく、僕はただ棒立ちで日常の終わりを痛感することしかできなかった。
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