私の自由研究

「はぁ……しまった」
 夏休みの半ば、私は焦燥に駆られていた。さっさと宿題を終わらせ、残りの半分くらいの期間をエンジョイして過ごすというナイスな私の計画は頓挫してしまったのだ。
 別に宿題が終わらなかったというわけではない。それはとっくのとうに終わった。絵日記も最後の日まで当たり障りのないことで埋めた。
「どうしよう」
 しかし、一番大きな課題が残っているのを今まで忘れていた……いや、もしかすると嫌すぎて封印していたのかもしれない。

「自由研究……どうしよう……」

 自由研究。それは毎年私を悩ませる悪魔のような宿題。算数のドリルよりも、漢字の二十回書き取りよりも、絵日記よりも、何十倍も厳しくいやらしい課題。
「ほんと、最初に自由研究を考えた人、消滅してくれないかな……」
 私は勉強が得意だ、だが創作性に欠ける人間……もといリッチなのだ。ここで小学生という立場に見合わないような高度な研究を提出するのもありだが、それは多分夏休み中には終わらないし、同級生にドン引かれるだろうし、なによりも大学あたりまでネタを貯めておきたい。
「はぁ……」
 残りの期間はちゃんと有意義に使うつもりだったのに。同級生の男の子にじっくりと時間をかけてアプローチして最後には既成事実を作り上げるつもりだったのに!
 くしゃくしゃと自由研究についてのプリント丸め、ゴミ箱に思いっきり投げ捨てる
「消えてしまえ、自由研究……ぎゃふっ」
 しかし、それはスコーンと縁に当たって跳ね返り、私の額に命中する。
 次の瞬間、その衝撃によって普段は創作性に欠ける脳みそがフル回転する。
 自由研究のことと、この先の計画のこと、それを同時に考えていたせいかその二つがミックスされ繋がってしまったのだ。
 そして、その結果。私は超弩級に天才的な発想をえることになった……
「……自由研究があってよかった」
 ただ、それはあまりに背徳的で、狂気に満ちた発想だった。


『りっちゃーん。律子ちゃん? 自由研究手伝いにきたよー』
 思い立ったが吉日。私は思いついたアイデアが冷めないうちに意中の同級生、川崎涼人くんを呼んだ。すると一時間後には私の家のインターホンを押してくれた。
「ちょっと待っててね」
 私は自由研究の用意をし、玄関のドアに向かう。
(大丈夫、できる。絶対にできる)
 最後に一度だけ自分の背中を押す。はやる気持ちを抑え、動揺を表に出さないよう落ち着かせてから私はドアを開けた。
 そこには私の愛しい涼人がいた。
「やっほ〜りっちゃん」
「今日はありがとうね、涼人くん……さぁ、入って」
「お邪魔しまーす」
 そう言って彼を迎え入れながら後ろ手でドアの鍵を閉める。上下にある二つとも。そして彼を促し先を歩かせる。
「でも珍しいねりっちゃん。いつもは僕が泣きつく立場なのに」
「そうだね……えっとね、今回の自由研究はね、二人で作らなきゃいけないものなんだ」
「へぇ、何作るの?」
「……赤ちゃん」
「……へ? むぐっ」
 私は前を歩く彼の口元に布を押し付ける。
「んんんっ! りっひゃん……んんっ」
 涼人は私を引き剥がそうともがく。でも無駄だ、もう半分も力は出ないだろう。
「ごめんね、涼人くん。これも自由研究のためなんだ」
「んんんむっ! んん……」
 さすがは刑部狸印のクロロホルム。人間製とは違ってあっという間に効く。
「あぁ……涼人くん
#9829;」
 ぐったりと力の抜けた涼人くん。その寝顔は安らかで、すぐにでも唇を奪ってしまいたいくらいだ。
 だが、我慢しよう。今は自由研究のための準備が最優先だ。


「んん……」
 拘束が完了し少し経つと、涼人くんは目を覚ました。
「え、なに……これ」
 彼は自身が置かれている状況を目にし、目を白黒させる。
 それもそのはず。だって裸にされて、手足をベッドのそれぞれの脚に手錠で縛り付けられている状態なんて驚くに決まってる。
「え? え? なに? やだ、こわいよ」
 ギシギシと手錠を引っ張り、抜け出せないか画策する。だけれどそんなのは無駄。小学生男子に破れる品物ではない。
「おはよう、涼人くん」
「り、りっちゃん……」
 そんな風に怯える涼人くんに、私はスケスケのネグリジェ姿で近づく。
「ねぇ! りっちゃん! 大変だよ! ぼ、僕たち、変なのに捕まっちゃったんだよ!」
「……」
 あぁ、気がついていないんだ、これは私がしたことだって。あのクロロホルムのせいで前後の記憶は曖昧なんだろう。もしかしたら今も少し効いてるのかもしれない。
 それに、涼人くんは優しい。きっと私がそんなひどいことをするリッチには見えないのだろう。私のことを大切なお友達だと、全幅の信頼を寄せてくれているのだろう。
 でもね、ごめんね。
 私、涼人くんのこと裏切っちゃった。
「ごめ
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