Cults of the Ghouls

 魔物娘の全ては愛のためにある。
 腕は愛する者を抱くためにあり、足は愛する者を追うためにある。
 目は愛する者を見るためにあり、口は愛する者を誘うためにある。
 決して。
 人を狩り、喰らうためにあるのではない。
 それなのに───

 どうして私には、人が『肉』にしか見えないのだろうか。

 答は簡単だ。
 私が屍を食らう鬼だからに違いない。
 その腕は、足は、目は、口は。
 どうしようもなく血に染まっているからに違いない─────



 『肉』で溢れる町を歩く。
 夥しい量の『肉』達が右往左往、縦横無尽に歩き回っている。
 本当は外などで歩きたくない。あの頃の抑えられないほどの食欲はないが、今でも『肉』を見ると腹が空く。
 腹が空くと。
 つい『肉』へと手を、爪を、牙を向けたくなる。
 だが、教団の力もある程度は強いこの国でそんなことをしでかせば───いや、そうでなくとも一瞬で私の首にお縄がかかることだろう。ただでさえ過去の人喰らいの罪を隠して生きているのだ。新たな罪を重ねるわけには行かない。
 というわけで、私は今日も食欲を抑えつつ買い物をする。『肉』ではない肉、その他の食糧を求めて。
 他の人ならば、他の魔物娘ならば、買い物など難なくすませてしまうのだろう。羨ましい限りだ。これが狩りならばどんなに楽なことであろうか。『肉』と接する必要もないし、気晴らしにもなる。
 少しだけ、昔が恋しくなってしまった。

 そんな懐古に浸っているうちに一層濃い『肉』だかりにぶつかる。
 しまった。何か催し物があるようだ。
 しかし、この道はいつも通っている店への最短ルートなのだ。迂回するとなるとだいぶ時間がかかってしまう。
「………………仕方ない」
 私はこの『肉』だかりを突っ切ることにした。
「失礼。失礼。少し後ろを。すまない。ありがとう」
 ごちゃごちゃとした『肉』を掻き分け、右も左もわからなくなっていく。どうやら進んでいくうちに行く必要もない中心部へとやってきてしまったようだ。
「次はこいつだ!」
 荒々しい『肉』の声が響く。どうやら奴隷市場が開かれているらしい。
 悪趣味な話だ。
 あんなに高い金を出して『肉』を買うだなんて。
 だが、そうか、そういう手があるのか。『肉』を買う………いつか飢えの限界が来たときにはこの手をとるしかないのか。
「前時代の悪魔の呪いに侵された『罪人』だ!」
 厭な考えに捕らわれている間に、商品が出てきた。それは────

 それは綺麗な少年だった。

「…………………」
 目を奪われた。
 確かに土や泥で汚れた襤褸を着せられ、顔も髪も体もろくに洗っていないような清潔感のかけらもない少年だ。
 だけれども、私の目には綺麗に見えた。
 いや、違う。そうではない。私がいいたいのはそんなことではない。
 私の目には、彼が『人間』に見えるのだ。『肉』ではなく『人間』に。
「…………………」
 少年は、静かに顔を上げる。絶望の闇に覆われた瞳が見えた。
「…………………」
 私は少年と。
 目があったような気がした。
「………………ぁ」
 気が付くと私は手を挙げ、こう言い放っていた。

「そいつは私が買う!いくら出せばいいんだ!」




「……………………くっ」
 恥をかいた。
 何か、こう、もっと違うやり方で競りをしていたようだ。手を挙げた瞬間、周りから嘲笑が………いや、爆笑が飛んできた。
 死にたい。アンデッド族が言うのもなんだが死にたい。
「死にたいぃぃぃ…………」
 だから自分の屋敷につくやいなや、頭抱え叫んでみる。
「……………悶えているところ悪いんだけどもお姉さん」
「! 何だ!」
「お姉さんはこれから僕のことどうするの」
「…………そうだな」
 嫌だな、本当のことを言ってしまうのは。
 要するに『君に言いようもない魅力を感じた』という理由でこいつを買ったのだが………それをこいつに言うのはどうなんだろうか。
「その、あの、だな、えぇと……………」
「隠してるようだけどもさ、お姉さん魔物娘でしょ?」
「っ!」
 バレてしまった。だが、こいつにバレても周りにバレることはないだろうから問題はないだろう。
 ただ、その次が問題だった。

「まさかさ、僕にいやらしいことするつもりじゃないよな」

 と、ゴミクズムシを見るような目で私を見てきたのだ。
「………………」
 尚更言いにくくなった。
 というか奴隷として買ったはずなのだが………妙にふてぶてしいな、この餓鬼は。
 少年呼びを餓鬼呼びにランクダウンさせるくらいには腹が立ったぞ、その目。
「…………あんまり調子に乗るなよ、奴隷」
 さすがにこのまま調子に乗らせておくのは癪だ。高圧的に脅すことにした。
 よい口実も見つかったことだし。
「そうだ、私は魔物娘
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