TRICK OR TREAT
今日は待ちに待ったハロウィーンだ。
TRICKと称して異性に悪戯にしたり、TREATと称してお菓子を食べまくったりしても許されちゃう日だ。というか基本的には何でも許されちゃう感があるな。もちろん、ゴミのポイ捨てとかはOUTだが。
しかし、そういう社会規範から外れた行為以外にもハロウィンでしてはいけないことが一つだけある。
『暗くなってから外に出る』。一番やっちゃいけないことだ。
例えゴキブリが出ようが、火事になろうが、マイケルジャクソンが外でスリラー踊っていようが家ん中に籠もってなきゃいけない。
何故かって?
そりゃあ、魔物娘に襲われるからに決まっているだろうが。
奴らこの日は特に目を光らせて獲物を探してる。一人で出歩いたら間違いなく童貞を落っことす事になるだろう。
まぁ、魔物娘と恋人になりたいなら止めはしないがな──────
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
重々承知していたはずなんだ、ハロウィンの夜の怖さについては。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
だけれども、友達が引き留めるもんだからつい長居しちまった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
俺は襲われたくはない。相手は魔物娘でも人間でも構わないが、できるだけ段階を踏んだお付き合いがしたかったんだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
だから走る。必死に走る。早く家に帰って戦利品のチョコでも食って寝てしまいたい。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
でも、知っているか?
魔物娘からは逃げられない。
「おーい、そこの………なんだ?えぇと、照る照る坊主!」
「はひっ!」
後ろから声をかけられ、足が止まる。
え?俺のこと?
俺は今シーツを被っている。ハロウィンの幽霊、と言ったら九割が想像するようなアレの仮装だ。それと照る照る坊主………確かに照る照る坊主と表現できないことはないだろう。
さぁっ、と血の気が引く。
「───────っ」
動けない。まるで金縛りにあったみたいだ。恐怖のあまり、ってのもあるが、それよりもまず呼吸がうまくできていない。走ってたせいで荒くなっていた呼吸のリズムがさっきの裏返った叫びで乱れてしまい、うまく酸素が肺へと送られないのだ。
「おーい」
コッ、コッ、カチャ、ガチャと固いものと固いものがぶつかる音が近づいてくる。どうやら足音のようだ。
コッ、コッ、コッ
「………………………ゴクリ」
もう、すぐ背後にいる。
汗が滝のように流れる。
「よっ!こんばんはー!」
次の瞬間、そいつは俺の正面に素早く回り込んでくる。
現れたのはスケルトンの少女だった。
「こ、こんばんはー……」
また声が盛大に裏返る。まるで喉がぶっ壊れたインコのようだ。
「ん?あまり見ない顔……っていうか魔力だなー……新人さん?」
「?」
新人…………?
「あれ?一緒にハロウィンするからここに来たんじゃないの?」
「あ、いや、まぁ、はい」
何だか話が見えない。もそもそとした返事しかできないんだが。
「うんうん、よくぞ来てくれた」
彼女は軽く頷きながらどこからかメモ帳を取り出す。
「さて、じゃあ名前と種族名をお願いしまーす」
「?…………………!」
人間、境地に立たせると脅威の発想力を発揮できるらしい。
現在グルグルとフル回転で運用している我が司令塔は一つの推理とも願望ともつかない結論を出す。
こいつ………もしかして………
馬鹿馬鹿しいアイデアに、俺は賭けることにした。
「ご、ゴーストの幽鬼霊(ゆうき りょう)です」
あまり誇らしく言えることではないのだが、僕の声は周りの同性より少し高い。だからと言って女声に聞こえるわけではないのだが……はたして。
「ユウキ リョウ…………ふむ、オッケー!じゃあついてきてー」
「は、はい」
…………………
やっぱりか。まさかとは思ったが。
この子、俺のことを魔物娘と勘違いしてる!
馬鹿じゃないのかこの娘。さすがにシーツの中から話しかけているとはいえ判別はつくだろうに……
まぁ、何とか救われた。よかったよかった。
と、内心でほくそ笑んでいると。
「ん、ちゃんと聴くとかなり低い声をしてるね………どうしたんだい?」
「!」
一瞬にして突っ込まれる。
だがやはりまだ脳みそはフル回転しているらしく。
「あ、これはですね、訪問の時男の声だったら相手もすぐ出てきてくれるかなぁ、と思ってですね」
立て板に水のごとく嘘が口から流れ出る。内心ではかなりビクビクしているが、ここは平然とした風を装わなければならない。
「ふむ、それはなかなかにいい案だね。最近は魔物娘への警戒が激しくなって女の人の声がするだけで鍵二つ掛け+チェーンって始末だからねー」
「へぇ………」
大変なんだ
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