僕、解虫集(ほどき つどい)は普通の高校生であった。
ついこの間までは────
五月半ば。
学校帰りの道を歩く。
つい最近リリースした位置ゲーアプリをやりながら軽い足取りで進む。
きょうはなんにもないすばらしい一日だった。
とても珍しいことに。
一ヶ月ほど前から変な奴らに付きまとわれ、無駄な疲労を背負う毎日が続いていたが……今日は来ないようだ。
「〜♪」
調子に乗って軽く歌など歌ってみたりする。
楽しいのだから、仕方ない。全然進まなかったゲームもスイスイと進み、滅茶苦茶レベルアップした。
「〜♪〜♪」
───しかし、そんな平穏も長くは続かなかった。
ブウゥゥゥゥゥゥン!!!
背後から荒々しいエンジン音。
キィィィィッ!
猛スピードでやってきたハイエースが、急ブレーキで僕の横に停まる。
「ぁ……………ぇ」
サァッと血の気が引いた飢餓する。
本当に真横。轢かれるかと思った。
ウィィィィィン
そして窓が開き、『災厄』が顔をのぞかせる。
「やぁやぁ、奇遇じゃな、集」
「甘咬…………」
ここ最近僕を悩ませる『災厄』、八木甘咬(やぎ かぷり)。
正真正銘の悪魔────バフォメットである。
「少し先にレアモンスターが出るという噂があってな……儂もそこに行く途中なんじゃが、乗っていくか?」
「絶対に嫌だ」
馬鹿か。
誘拐する気満々じゃねぇか。
誰が乗るんだよ、そんな誘い文句で。
「ほぉ………ならば」
パチン
と、甘咬は指を鳴らす。
すると後部のドアが開いた。
そこには魔女とファミリアが待ち構えていた。
甘咬の部下だ。
「! やべっ!」
慌てて逃げ出そうとするも──
「かかれぇ!」
「が、がんばりますっ!」「行くっスよー!」
甘咬の号と同時に二人は僕に飛びかかってきた。
「う、おおおおおおっ!」
どしん、と二人の身体がぶつかり、僕はそのまま地面に崩れ落ちる。
「何すんだおまえら!」
二人が僕の体に抱きつき、拘束してくる。
さすがは魔物娘。普通の少女の何倍も強い。
「す、すいません、命令なんです」
「少しだけっスから!少しだけ誘拐されるだけでいいんっスよぉ!」
少しでもされたらアウトだろうが!
「くそぉ!離せ!」
だが人間だって負けちゃいないさ。
こいつらに付きまとわれるようになってから身につけている護身用の『身体強化』のお札を発動させる。
「ぐぉぉぉぉぉっ!」
「あああっ、ダメですっ!」
「引き剥がされそうっスぅぅぅ!」
べりっ
強化された腕力でもって、彼女達を引っ剥がす。
「うおりゃぁ!」
そのまま強化された脚力で逃げる。
それはもう速い。アプリから警告が出るくらいに。
だけれども。
「なっさけないのぉ」
甘咬が窓からひとっ飛び。
「え」
たったそれだけで。
「ぎゃぁぁ!」
「えぇい!大人しく捕まるのじゃ!」
僕の逃走劇は幕を下ろした。
微かな揺れで目を覚ますと、そのは車内。
しかも席を畳んだ後の後部座席である。
「はっ!甘咬!てめぇ!」
「ほう………気がついたか」
目の前には甘咬がいる。前の方に目をやるとファミリアが運転していた。助手席には魔女。
「あぁー……
#9829;とても愛らしかったぞ、お主の寝顔。食べてしまいたいくらいじゃった
#9829;」
「少しだけ顔が濡れているような気がするんだが………それのせいなのか?」
嫌だなぁ……寝ている間にペロペロされるとか。
まぁ、美少女にやられるのならそこまで問題はないか……
「はぁ………で、ここどこ?」
「人のいない所じゃ」
「確かにいないみたいだけれども」
窓の外は鬱蒼とした森が広がっている。
「そうじゃなくて、もっと具体的にだよ」
「わからん」
「…………………」
まったくもーなんでこいつはいつも適当なんだよ。
「帰れるんだろうな?」
「?」
「可愛らしく首を傾げても無駄だぞ!帰れるんだろうな!」
「帰れなかった時は………そうじゃな。その時は我々三人と交わり続け、子を成し、国を作るのはどうじゃ?それもまた一興じゃろう」
「こわ」
森の奥にロリだらけの謎の独立国が誕生とか。
笑えんぞ。
「安心せえ。儂の力ならどうとでもできるわい」
「……………」
できちゃうんだろうけどなぁ……絶対面倒くさいことになりそうだよなぁ……
「で、えぇと、なんでこんな所に?」
「確実に邪魔者が入らんからのぉ……森の奥なら思う存分交わることができるぞ
#9829;」
「………」
神よ、どうか僕を救ってください!
「さて、それでは味見の方を」
「お、おい!」
一応、拘束はされていないのだが、車内、しかも不安定な道を走っている車内である。暴れるのに躊躇いが生じてしまった。
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