「駄目だな。これが文字という事は分かるけど、全然読めんわ」
革表紙の書物の内容を見て、俺は呟く。俺の隣に居た少女は、
「言葉は分かるけど文字は駄目みたいだね。読むには一から勉強しないといけないよ」
と言う。俺は
「ミコさん。すまないけど誰か文字を教えてくれる人を頼めないか。やっぱ文字が読めないと不便だし」
と少女。ミコさんに頼む。ここに来て彼女の仕事を手伝おうと思っているが、やはり文字が読めるのと読めないのとでは大違いだろう。ミコさんは、
「ルカ。前にも言ったけど私の事はミコでいいよ。後、文字なら私が教えましょう!」
と言った。俺は
「いいのか?ミコさ……ミコは他にも仕事があるんだろう?」
と言う。
「大丈夫大丈夫。マコと代わり代わりにやっているしね。貴方に教える時間ならあるよ」
とミコ。まぁ本人がそう言うなら良いかと思いながら
「分かった。じゃあ宜しく頼むよミコ先生」
と頭を下げる俺であった。
突然ながら俺には何故か過去の記憶がない。ルカというのも、ミコがつけてくれた名前で元々の名前は分からない。初めてこの島に来た時、俺は海辺に居た。何故だか身体のあちこちが痛く訳が分からなかった。そうして1時間程呆然としていた所、俺を発見したのがこの島の警備だった。
あれよあれよと屋敷に運ばれ、手当てを受けたのだが。記憶喪失しているのだから当然といえば当然だが屋敷の人達が話すことは意味が分からなかった。いや、言葉は通じていたが話の内容はさっぱりだった。
「この人、まだ人間ですよ。いや、ここは魔界ですしインキュバスになるのも時間の問題だと思いますけど」
「人相はジパング辺りの者みたいだけど、この島からジパング地方は遠すぎますよね?」
「魔物でない人間なら反魔物領の人だろうけど、この近くで船が難破したなんてニュースは聞きませんでしたね」
「この島は反魔物領に遠くはないけど近くもないからね。海難にあったなら海の魔物達に救助されてないとおかしい」
「実際周辺海域の方たちに聞いても何も知らなかったようね」
魔界?魔物?そんな話を聞いているうちに、俺はある違和感に気づいた。見かける男性は普通の人間の様だったが、女性が明らかにおかしかった。獣の様な耳が頭から生えていたり、下半身が蛇の様になっている。俺は混乱しながらもベッドから身体を起こした。その時、
「大丈夫?まだ寝ててもいいよ」
とベッドの側に居た、白い髪が先端に近付くにつれ青くなり時折黄色い模様が入った長髪の、角や翼、尻尾が生えた美少女が俺に話しかけて来た。俺は思わず、
「君は?」
と彼女に問うた。彼女は
「私はミコ・サウスタンプ。貴方、名前は分かる?」
と言った。俺は、
「俺は、お、俺は……」
と自分の名前を言おうとして言えなかった。そんなもの記憶になかったからだ。それを見たミコは
「やっぱり記憶喪失なのね。無理に思い出さない方がいいわよ。貴方は今とても疲れているの。ゆっくり休みなさい」
と言いながら優しく俺を寝かせた。俺は、
「あ、ありがとう。ところでここはどこなんだ?」
と聞く。するとミコと名乗った彼女は
「ここはハウオラ島。私……というか私の一族が所有する島よ」
と答える。そして続けて
「貴方が倒れてる所を見つけた時はびっくりしたわ。でも命に別条がなくてよかった。それにしてもどうしてあんな所に倒れていたの?」
と聞かれる。俺は
「えっと。気が付いたら砂浜で倒れていて……。ここって日本じゃないんですか?外国ですか?」
と聞いた。ミコは
「ニホン?何処かしら?少なくとも私は聞いたことがないかな」
と答えた。俺も日本という故郷のことは朧気ながら知ってはいたが、ここは日本の名も入ってこないくらい遠い場所なのだろうか?この現代にそんな馬鹿なと思うが。しかし俺にはそれ以外に思い当たる節がなかった。
「うーん、まぁとりあえず身体の調子が良くなるまでゆっくり休んでいて。後で医者を呼んできますから」
と言ってミコは部屋を出て行った。それから少しして、ミコさんが再び部屋に入ってきた。
「ミコさん。どうかしましたか?」
と俺は未だ混乱が収まらない中、応対する。するとミコさんは少し顔をしかめて、
「私はミコじゃない……マコ・サウスタンプ……ミコの双子の妹よ」
と言った。俺は
「えっ?」
と驚いた。そういえば、彼女はミコさんに比べて、髪の色が暗いような……マコは
「私とミコを間違えるなんて、かなり疲れているみたいね……まったく、こんな人が私達の運命の人の訳ないじゃない」
と言った。後半は小声で聞き取れなかった。俺は
「えっ、何て言ったんです?」
と聞き返すが、マコは
「なんでもありません!とにかく安静にしてくださ
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