はい。そうしているうちに冬が到来し、私はそのまま飯井羽町で年を越すことになりました。
偶に雪も降って、いつもの仕事の他に食堂や市役所の回りの雪かきも手伝いましたよ。
ええ、まあ雪かきの方は重機の様なものはありませんが、力の強い魔物のお陰でそれ程の時間は掛かりませんでしたねぇ。
まあこの季節になると家に籠りきりになる住民も多いので人手は不足気味だそうですが。
季節が変わっても私の仕事はあまり変わらず、偶にネネコや近所の子供たちと雪合戦に参加していたりしたのですが、ある日町長夫妻からお話がありました。
一緒に外国に行ってもらいたいと。
はい、私もそれだけでは今一よくわからなかったのですが、話を聞いていくと魔物達の学会ではなんでも異世界に関する調査が研究の一つに上がっていて、飯井羽町の周辺でも前々から別の世界に繋がっているという噂があったので調査対象になっているようなのです。
そして今回約百年ぶりにその別の世界から、それも人間一人がやってきたものでその情報を受けた研究グループは騒然となり直ぐにその人間を調べたいのでこちらに連れてくるようタマグシさん達に連絡が入っていたそうなのです。
しかしタマグシさんはこちらの世界に迷い込んで来たばかりで混乱している私に悪いと判断してくれていたようで、数か月間その返事を保留にしていたそうなのですがその間その研究グループからしつこく連絡が来ており、私も魔物の世界に来てからそれなりの時間が経ち慣れてきたようなので今回この話を持ち掛けたのだそうです。
その研究グループがある場所はレスカティエと言う名のジパングから遠く離れた場所らしいのですが、タマグシさんは調べると言っても簡単な検査だし、自分達も同行するので海外旅行だと思って安心して欲しいと頼み込んで来ました。
はい、私としてはもちろん不安はありましたよ。なにしろ初めて飯井羽町以外のこの世界の場所に行くことになるし、本当に行われる検査はどんなものなのは分かりませんからね。
しかし、これまでタマグシさん達には本当にお世話になっておりましたしここで頭を下げられたら流石に断る訳にも行かないでしょう。それにこの世界の外国に好奇心がないわけでもありませんでしたから、町長夫妻も同行してくれるなら心細さも薄いだろうと私はその頼みを了承しました。
それを聞いた町長夫妻は安堵した表情を浮かべると、本当に申し訳ございません。検査以外の時間はレスカティエを観光できるようにガイドも手配させますからとおっしゃいました。
まるで本当に観光旅行をするようだと思いながらいえいえ、そこまでされなくとも結構ですよと言いましたがタマグシさんは「いえ、せっかくレスカティエまで行くのに検査だけではあまりいい思い出にはならないでしょう。私たちも同行はしますが他にレスカティエでしなければならないこともありますし、あなたをレスカティエの大学院に一人残して行くのはこの町の市長としては無責任でしょう。」といい、「そうだ、どうせなら『川の箸』の方々も一緒に観光するのはどうですか?仲の良い人達が一緒なら学院の外でも行動しやすいでしょう」となんと自分だけではなく「川の箸」の皆も同行するのを勧めてくれました。
私はそんないきなり「川の箸」の皆に悪いのではと言いましたが、「川の箸」に連絡した所、あっさりと同行の了承を得てしまいました。
諸々の費用は常識外れでない限り、タマグシさんや向こうの研究グループが出してくれるそうなので、滅多にできない海外旅行に行くべく皆食堂を一時休業にして一緒に来てくれることになりました。
ネネコなどは生まれて初めて海外旅行に行くのでとても喜び、大はしゃぎの末に私に飛びついた際に食卓をひっくり返し女将さんに大目玉を食らっていましたよ。
はい、そうしてレスカティエへ出発の日となり旅支度を終えた私たちは指定された町のはずれの野原に来ていました。町長夫妻は既に到着していて私たちを待っていましたね。
タマグシさんは私の側までいくと、なにやらお札の様な物を渡してきました私はこれはなんですかと質問しますと、貴方の身体に魔力が入り過ぎないようにする護符ですと言われました。
ええ、その時一体何のことなのか今一よくわからなかったのですが、魔物化の話はもうしましたよね、はい、魔物化と言うのは一般的に人間の体内に魔力が溜まった結果なるそうなのですが、飯井羽町ではある理由からタマグシさんが結界を張っており、人間の体内に魔力が溜まって魔物にならないようなフィルターの様な役割をしているそうなのです。
なにせ魔物の住む土地は「魔界」と呼ばれ、魔物の魔力に溢れた土地なのでそこにいるだけで人間は魔物になってしまうそうなのです。
はい?魔物は人間を魔物化させるのに抵抗は無さそうなのになんでそんな面倒そうなことをしているの
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