激情サラマンダー娘

―――ここは巨大では大きすぎ、小さいと言えば狭すぎる程度の曖昧な大きさを誇る規模を持った商業都市……。
少し前までは農村や田園地帯が横たわるばかりの、特産品もろくになかった地帯がこの辺りに広がっていたのだが、とある富豪がここの立地に目をつけ、近隣に点在している資源豊かな土地から物資を運ぶ際の中継地に仕立て上げた。

それが見事成功し、かゆい所に手の届く商人たちにとって理想的な、輸送の中継地兼、商業都市となり、今では見事に昔の面影を消し去ってしまっていた。

その富がもたらす経済効果は瞬く間に辺り一帯を豊かに潤し、少しばかりの繁栄をもたらしているが、私は一方でこの都市の暗部をしっかりとこの目で確認している。

都市に集まる豊富な物資と資源、そして金。
急速に発展した都市へ商人の次に現れたのは、賊の類だ。
そして盗賊や追い剥ぎが現れるのなら、危険から身を守る為の役割を担う者が次に現れるのが必然。

それらの内の一人が、自分。自身が暗部の内の一人でもあるという訳だ。

なにも盗賊や追い剥ぎだけがこの都市の暗部という訳ではない。
他にも、将来的にかなりの利益をもたらすだろうこの都市。その利権絡みの闘争による賄賂、暗殺、果ては小規模な戦いなど。
あとは元々この地帯に住んでいた農民達がないがしろにされている、という実態もあるが、自分は別に慈善家でも義賊でもないので、こっちは関係のない話である。


という感じで、表面上は豊かだが内面は濁りきっている都市……と言いたいところだが、中心部から少し離れるとすぐに昔を想起させるような、のどかな田園地帯や農村がぽつりぽつりと点在していて、なんだかんだ言っても私は幼い頃から過ごしてきたこの土地が気に入っている。

とは言っても、前述した通り便利屋としてこの都市で生活する事は、並大抵の努力で成し得るものではなかった。

今では、私の依頼達成率は100%
こう言えば私が見栄を張るペテン師に思えるだろうが、この数字こそが私が人生を過ごしてきたなかで見つけた鉄則、いわば教訓なのである。

更に砕いて表現すると、“確実に成功する依頼しか請け負わない”、だ。

私をこの世界に導いた恩師でもあり、それ以上に生涯の恩人でもある人が、無茶な依頼を請け負った結果、死んだ。
なんとも呆気なく姿を消したその恩人から私は、先程言った“100%”の教訓を見出したのである。

その為に私は途方もない努力をした。教訓通り、絶対失敗しない依頼を見定めた上にほとんど休みなしでそれを請け負い続け、名を上げ、得た資金で装備を整える。
あまりに名を上げ過ぎると、他の同業者から狙われる為準備が万全を期すまでは一定以上の活躍は見せない。

そんな気苦労の耐えない、心休まる暇もない時期がずっと続いた。

しかし、今では努力が実り、少なくない金といくばくかの地位を手に入れたのだ―――



……私はもう何回も通い詰めた酒場に顔を出すため、酒場に通じる、いかにも厄介者が溜まり込んでそうな辛気臭い路地に赴く。

大通りなら小奇麗で華やかな面を見せるこの都市だが、少しばかり道を外れるとこの通り。道の舗装は端がめくれ、雨でぬかるんだ土が顔を覗かせる、この都市の暗部の一端を垣間見せる薄暗い場所へ出るのだ。

浮浪者が寝呆けている横を通り過ぎると、土の上に広がる水たまりに私が着こんでいる黒い鎧が、水へ墨汁を垂らしたように映り広がる。

同業者、ないし恨みを抱かれた者に疎ましく思われ、たとえ寝首を掻きにこられようと対処出来る程成長したと踏んだ頃から、私は地位や、異名などに代表される印象を、巷に確立しようと尽力した。
その甲斐あって、噂や異名が今では依頼主にとって安心のネームバリューとなり、暗殺を何度も撃退した事で同業者からは邪魔する者、ましてや暗殺を画策する者も居なくなったのだ。

……灰色で目の粗い石畳が敷かれた、細めの路地をどんどんと進む。等間隔に置かれた申し訳程度の街灯が、より一層辺りのわびしさを照らし出している。そして歩き慣れた路地の角を曲がると、目的地が目の前に現れた。

いかにも低俗な酒を提供していると看板に書いている酒場。ここが私の職場だ。

粗末な鉄枠で囲まれ橙色の明りを漏らし、夕暮れを越え暗くなりつつある都市を照らす酒場に近づいた。無骨な黒い手甲で木製の扉を押すと、ギィ、という音と共に扉は開く。
遠慮する事なく中へ入ると、まず出迎えるのが酒の臭い。次いで、タバコなどの強い臭気が鼻をついてきた。

慣れた香りを肺に吸い込みながら、手近なカウンター席へと席を降ろした。
この店に入って来るのは訳ありの者か、何も知らない一般人のいずれかのようであり、私が入店した際にも素早く意味ありげな視線を向けてくる者が数人いたが、この黒い鎧を見た途端誰もが興味を失った
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