バフォメットが表情を引き締め、ひたとブライトを見据えた。
バフォメットから魔力が立ち上り、それが無数の黒き剣へと変わりゆく。剣がブライトめがけ放たれ、同時にバフォメットが鎌を構えブライトに切りかかる。
「とっ!」
態勢を低くして鎌を避け、そのまま転がり剣を避けていく。黒き剣が地面に深く突き刺さり、黒の霧へと変じて掻き消える。
足で地を強く踏み、動きを止める。態勢が低いまま、ブライトは柏手を二度打つ。その音に剣の動きが一瞬鈍る。
「おん あみりてい うん はった!」
眼前まで迫った剣が、灰になり掻き消える。
「おん しゃちり きゃらろは うんけん そわか!!」
ブライトが霊撃を撃った。
鎌を魔力で包み、それを切り裂く、バフォメットの後方で爆音がなる。
今までの相手ははるかに違う。なんなんだこいつは。
「…っ!」
現状が不利だと思い。バフォメットが宙を舞う。
ここから攻撃のつもりだろう。術なら空も関係ない気がするが、高度によっては優位になるだろう。それは良い方法だ。
相手も飛ばなければ。
ブライトがある紙を取り出し前に放り投げる。柏手をうち、刀印を組む。
「おん あらはしゃのう おん あらはしゃのう…」
同じ言葉を繰り返していると、紙がすう…と浮く。それに足を乗せると、バフォメットと変わりない高度まで昇った。
ブライトが腕を組んでどや顔でバフォメットを見据える。
「…っ!?」
人が飛ぶ。それに驚きながらも迎え撃つ。
ブライトがそれを無造作に避け、バフォメットの作る隙の間に素早く呪文を唱え、霊力の矛を放つ。バフォメットもそれを大きく動き避けていく。
「…」
それは一瞬だったが、バフォメットの顔に思い詰めたものが浮かんだ。その表情にブライトは気付き、はっと目を瞠る。
「…あんたはなんでここにいるんだ」
柔らかい声音が耳朶を叩く。バフォメットが虚をつかれ目を見開く。
「それは…! …お主が勝ったら教えてよう」
重々しく言うと、攻撃がひと際猛々しくする。
「禁!!」
避けきれない獰猛な攻撃を防壁で防ぐため、短い言葉を発する。
「…っ!」
防壁と衝突するごとに、反動がブライトに襲い掛かる。荒く、勁い魔力だった。
ブライトが柏手を一度打つ。
「おん ばざら だどばん! おん くろだのう うん じゃっく そわか!!」
今出ている荒れ狂う魔力が掻き消えた。
バフォメットが手を掲げる。新たな魔力の気配がする。
「おん あびらうんけん ばざら だどばん」
ぶわりと、バフォメットを中心に常人には見えない黒い渦がまいている。
「のうぼん たり たぼり ばらぼり しゃきんめい しゃきんめい たらさんたん おえんび そわか…」
素早く、静かに言ったが、それは不可視の結界を築く。そしてより荒々しい魔力の奔流を全て防ぎきった。
バフォメットの瞳が驚愕に染まる。
「…バフォメットは、魔界以外では滅多にいない」
どくん、と小さな心臓がはねる。
「大変な理由が、あるんだろ?」
優しく言った言葉に、少女の顔が相応している柔らかい表情になる。突き詰めたものがなくなったように。
しかし、それを一瞬で隠す。
ただでさえ黒い魔力が、どす黒く変貌するのが分かる。魔力を強めているのだ。
バフォメットの顔から相当の無理なのだと、分かる。
「…」
ブライトがす…と目を静かに閉じた。
「無駄な事はやめろ、お前の攻撃はもう喰らわない」
淡々としていたが、バフォメットの魔力の動きが極限まで鈍くなった事と、バフォメットの顔が強張る事が、一目で認識できる。
実際には、喰らうだろう。けれど、言葉は言霊と呼ばれ、一言、一言に力がある。呪文でなかろうが、その効果は十分にある。心とは違う事を口にしても、力となる。
両の手を強く合わせる。
「おん あびらうんけん ばざら だどばん」
あれを解き放てば、どうなるか、分からない。
「のうまく さまんだ ぼだなん あびら うんけん」
なれば、解き放てる状態になる前に…打ち砕く。
「おん ばざら だどばん」
刀印を組んだ右の手を上へともっていく。
「のうまく さんまんだ ばざらだん せんだまかろしゃだ そわたや うんたらたかんまん」
刀印から別の印に切る。
それは普賢三マ耶(ふげんさんまや)の印。
「臨」
大金剛(だいこんごう)印。
「兵」
外獅子(げじし)印。
「闘」
内獅子(ないじし)印。
「者」
外縛(げばく)印。
「皆」
内縛(ないばく)印。
「陣」
智拳(ちけん)印。
「裂」
日輪(にちりん)印。
「在」
隠形(おんぎょう)印。
息を吸い込み、強く発する。
「前っ!!」
バフォメットを渦巻くどす黒い魔力が、石が砕けるようにぴしりと亀裂が入り粉砕する。
「
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