第九話 霧の中を大疾走の巻

「…あっ〜〜!」
 俯いていたブライトが急に顔を上げながら声を発した事に、ラミアがびくりと驚いた。
 背を少し反らし、警戒している様子のラミアはおどおどしながら聞いた。
「な、何?」
 ラミアの言葉が耳朶を叩いた瞬間、ラミアはブライトの言葉が耳に届いた。
「いや、いつまでもうじうじしようが何の意味もないなーと」
 その声は、交合する以前の調子だった。
 ちなみに自己嫌悪に陥っていた時間は、実は言うほど経っていなかったりする。
「落ち込むぐらいならさっさとレオナに謝ったほうがいいなと…それで何がおころうと受け止める」
 そう言って立ち上がったブライトには、先ほどまでの様子はどこに行ったというのか、元通りだった。
 それを聞いたラミアはぽかんとしていた。
 何とも、清々しいというか。
「と、言うわけでここから出る道に案内してくれ…そういや名前も知らないな、なんて名だ?」
「…ティア」
 すっぱりと思いきりのいいブライトの笑顔を見て、ラミアはティアと名乗る以外何も言えなかった。



 奇妙に歪んだ下り坂がレオナの視界に入った。ここ以外はあの霧に包まれ進入は難しい。
 一部分から見れば分からないが、この霧は殻のように発生しており、内部は歩けるようになっている。
 宝玉自身が防衛の為に築き上げたのだろう、この殻の中に、宝玉が封印されている。
 この殻にただ一か所、出入り口があるのは、主が来れるようにする為なのだろうか。
 この道を歩けば無害なので、ブライトに説明していなかったが、あそこまで魔物が多い事実を知らなかった。完全に油断していた。
 己の失態を呪いながら、レオナは霧の中に入っていった。
「む…?」
 何か、違和感があった。生き物の気配はない、魔物の気配も感じない。あるのは創られた魔力だけだ。何だろうか。
 瞬間、レオナは冷え切る感覚を背に感じた。
「…まさか!」
 何か閃いたのか、はっとしたレオナは頭上を見上げ、息を呑んだ。
「そんな…あれは…」
 心臓が氷に覆われるような錯覚に襲われる。
 剣呑に眉を寄せ、レオナはさらにより速く足を動かした。



「なあティア」
「なに?」
 今二人は歩いている。
 ブライトが目を細め、先を睨んでいる。
「…これ、本当に出れるのか?」
 ここ一帯は、木々が多めだ。その為、ブライト達はまっすぐ歩く事はなく、歩いてきた経路はくねくねと曲がりくねっていた。
 時刻は分からないが、けっこう歩いた事は自覚している。
 それなのに、場の景色は草木の生える所が変わっているだけだ。
 上に行く坂も、上の霧が晴れる様子もない。本当に案内されているのか怪しくなってしまう。
 ブライトは直接口にしていないが、自身を疑う意識があるのだと理解したティアは、口をへに曲げ、怒りに染まった瞳でブライトを睨みつける。
 それを見て、困ったように苦笑したブライトは、謝罪した。
「…ごめん、そういうつもりじゃなかった」
「別に何も言ってないでしょ」
 荒げてはいないが、明らかに憤慨していることが声音で分かる。
 いつまでも結果が出なければ、絶対だという確証もない限り基本、人間は疑ってしまう。
 ティアを信じていない訳ではないが、やはり考えてしまう。仕方ない、個人で程度の違はあれど、人というのはそういうものだ。
 それを言葉で完全に理解させる事は難しい。また、たとえ理解しようが納得も難しい。
 とりあえずティアは案内を中断する様子はない。
 いま何を言おうと、逆に刺激となってしまうだろう。
 そう考え、時間をおいて改めて謝罪しようとブライトは心の中で決めた。
 その刹那。
「…っ!」
 本能が警鐘を鳴らした。
 反射で辺りを見回す。見ればティアも同様に警戒している。彼女も何かを感じ取ったのだろう。
 気を研ぎ澄ませ、注意したが、敵はいない様子だった。
 ぞっとブライトは身ぶるいをした。そのままはっと上を見上げたブライトは瞠目した。
「…なっ!?」
 見上げた視界に映るものを、つい最近ブライトは見た。感じた。
 それは、どす黒い魔力だ。
 黒い霧は、一見ただの黒色だ。しかし、先ほどにはなかったぞわぞわと、足の先からはいあがってくるおぞましさを纏わりつかせている。
 霧の魔力が強くなっている。
 いったい何が起こっている。
「…レオナの奴…こんな事は説明してくれよな」
 剣呑に呟きながらブライトは符を取り出した。そのまま言の葉を紡ぎ、符を浮かび上がらせる。
「つかまれっ!」
 ぴょんと符に飛び乗ったブライトはそうティアに言い放った。
 ティアの小さな両手がブライトの両の肩を掴む。蛇の胴体部分はなんとか符の効果が及ぶ所に乗っかっている。
 後ろを見て、それを確認したブライトは木々にぶつからないよう制御できる程度の速さをだした。
 しか
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