イタズラゴコロ

 目が覚める。寝惚け眼をこすりながら辺りを見渡すがまだ暗い。
珍しいこともあるもんだなぁなんて思いながら、隣で眠る愛おしい彼の寝顔を見つめる。
普段の格好いい顔は鳴りを潜めて、無防備で安らいだ可愛い寝顔を晒していた。

「……んふふー
#9829;」

それがあまりにも愛おしくて思わず寝ている彼に抱きつく。
彼の温もりとニオイが微睡んでいた意識を徐々に沈下させていく。
でももう少し、もう少しだけ寝顔を堪能したい。
名残惜しいけど、胸板に埋めた顔を離して寝顔を観察する。

「……寝顔、かわいいなぁ……
#9829;」

思わず頬がだらしなく緩んでしまうほどに、彼の寝顔は愛らしかった。
どうしてこうも魅力的なのだろう。正直、無限に見ていられる。

 暫くの間観察していると、安らかな寝息を立てる彼の唇に目が止まる。
いつもボクを呼びかけてくれる唇だ。
いつもボクに愛を囁いてくれる唇だ。
いつもボクの体を愛してくれる唇だ。
そう思うと、目が離せなくなるのと同時に、仄かな悪戯心が芽生える。
身も蓋もない言い方をすれば、ムラムラしてしまった。

「……ちゅー、したくなっちゃった……」

流石に起きてしまうだろうか。
ふと、『寝ているお姫様を王子様のキスで目覚めさせる』なんてロマンチックな話もあったなと思い出す。
いまやろうとしているのは完全に逆ではあるが、それに倣って、でも起こしてしまわないように唇を近づける。

「んっ……
#9829;」

触れるか触れないかのソフトキス。
目覚める様子はなく、ホッと胸をなでおろしながら、満たされない欲求が胸に渦巻く。
こんなのでは足りなかった。
もっと、もっとキスしたかった。
貪るみたいに激しいやつをしたかった。
彼がいつもしてくれるみたいに、口の中全部かき回すようなキスがしたかった。
『起こしてしまわないだろうか』なんて、もう頭の中から消えてしまっていた。

「はむ……ちゅ、んぅ……じゅっ、る……っは、れぅ……
#9829;」

今度は深く、ディープキス。
薄く開いた唇から舌を滑り込ませて、無防備な彼の口内を味わう。
完全に無抵抗でなすがままの彼にこうしてキスしていると、なんだかイケナイことをしている気分になる。
いや、実際イケナイことなのだろう。
でも、火のついた悪戯心はもう止まりそうにもなかった。

「おにーさんがイケないんだ……んむ……こんな……はむ、ちゅ、ぅ……こんな可愛い顔で寝てるから……
#9829;」

唇を貪りながら、自分の行動を理不尽に肯定する。
我ながら酷い言い草だとは思うが、こうでもしなければ罪悪感と自己嫌悪で落ち込みそうだった。
しかし、責めの激しさとは裏腹に彼が覚醒する様子は見られず、なおも安らいだ寝息を立てていた。

唇を離すと、興奮して粘度が増した涎が糸となっていた。
それがぷつんと切れて彼の唇に吸い込まれていく。
その様子と、自分の涎で濡れた彼の口周りに『無防備な彼を汚してしまった』という興奮が下腹あたりをキュンとさせた。
あまりにも甘い疼き。もっと彼を汚してしまいたいという浅ましい欲求。

きっと、起きたら怒られてしまうんだろう。
それとも『しょうがないな』なんて笑って許してくれるだろうか。
今ならまだ笑って許して貰えそうだ。
でも、ここで止まれるほど肥大したボクの欲求は理性的ではなかった。

「ん……ちゅ……れぉ……
#9829;」

もう一度キスをする。
そしてそのまま舌を唇から頬を通り、顎を通過して首筋に移動させる。
仄かな汗の味と、彼のニオイにクラクラしながら甘えるように吸い付く。
時折感じているのかビクッと震える身体と、荒くなった寝息に妙な達成感すら覚える。
いっその事起こして、オシオキされたいなんてマゾヒスティックな欲求まで芽生え始めている。
でも、そんな欲求とは裏腹に彼の眠りは深く、キスマークだらけになった首筋だけが残った。

 『ここまでしても起きないのなら、何をしても起きないのだはないだろうか』
そんな邪な思いが嗜虐心に火を付ける。
いつも彼に責められて主導権を握られっぱなしなのだ。
たまにはこうやって主導権を握って彼をイジメてみたい。

首筋に這わせた舌を今度は上へ。
耳に到達したそれを、その形に沿うように舐めていく。

「ぁっ……!」
「――――――!!!!」

一際大きく体が跳ねて、色の混じった喘ぎが寝息に交じる。
その反応に熱に浮かされたようにぼやけた理性が急激に戻ってきた。
起こしてしまったんじゃないかという焦りと、叱られてしまうという淡い期待を胸に抱きながら様子を見る。
しかし、やはり彼の眠りは相当深いようで暫く待つとまた寝息が安らいでいった。

焦りが消えて落ち着いてくると『耳が弱い』という彼の一面を知れた嬉しさが急激にこみ上げてくる
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