砂漠の姫と近侍の少年


砂漠のどこかにあるオアシスの国、クヴァサ。ファラオの治めるその国は湧き出る地下水と生い茂る自然に囲まれ、辺りの過酷な砂漠とは打って変わって豊かな国。比較的規模の小さい国ではあるが、その分国民すべての言葉に耳を傾け、行き届いた政治を行なっている
これは、そんな砂中の楽園クヴァサのお話

……………………………………………

「母様!」

ぱたぱた、と城の廊下を駆ける一人の少女。褐色の肌と、自分の背丈よりも大きなコブラを連れるその少女はファラオ。このクヴァサを治めている女王の一人娘、いわゆる姫だ。名をプリシラという

「おうプリシラ、どうした?そんなに急いで」

プリシラが玉座の間に着くと、母親、アリアがおどけた調子で話しかけてくる

「もう!用があるから今すぐ来い、と私を呼んだのは母様でありましょう!」
「くくっ、そうであったな」

ケラケラと笑う母。プリシラにとって、母にからかわれるのは日常茶飯事とはいえ、腹が立たない訳ではない

「…それで、用事とは一体何なのですか?」
「おう。プリシラ、今日は12歳の誕生日であろう。だからプレゼントをやろうと思うてな」
「本当ですか
#8265;」

だが、からかわれてムスッとしていたプリシラもまだまだ幼い子供。プレゼントとなれば一転して花が咲いたような笑顔に早変わりする

「母様母様!プレゼントは何なのですか?」
「ああ、とびきりいい物だ。エルム!入ってよいぞ!」
『はっ…はい!失礼いたします!』

母の呼ぶ声に反応して、奥にある両親の自室から、ガチガチに緊張した声と共に誰かが出てくる
それは、背丈は自分と同じくらい、サラサラの茶髪を耳の下あたりで切り揃えた、真面目そうな少年だった

「…?母様、彼は?」
「プレゼント」
「……は?」

……………………………………………

私の名はプリシラ。砂漠の王、ファラオの子。我が国クヴァサにおける姫という奴である
先月、私は12歳の誕生日を迎え、父様母様からはプレゼントをいただいた。今までのプレゼントは、可愛らしいアクセサリーだったり、豪華な食事だったりしたのだが、今年は……

『姫様ー、起きていらっしゃいますかー?』

今年の誕生日に頂いたのは、私の部屋の戸を叩きながら、呑気な声で呼びかけてくる、エルムという少年だった

あの日、プレゼントだとあやつを差し出された時、母様が何を言っているのか全く理解できなかった
母様が言うには、「もう12歳、そろそろ近侍の一人ぐらい持たねば王族としての自覚が出んだろう」とのこと。エルムは、私の近侍、兼、近衛兵として両親が雇った兵士志願の少年だそうだ

「…ん……ぁふ…おはよう……いま起きた…」
『おはようございます。朝食は如何致しますか?』
「んー……ヨーグルト…」
『かしこまりました。用意してきますので、その間にお着替えを』
「むぅ…わかっている…」

コツコツ、と部屋から離れていく音が聞こえる
この1ヶ月で、エルムの奴も王室にかなり慣れたようだ。初日なんかはガッチガチで、身の回りの世話なんて本当に出来るのかと心配だったが、全くの杞憂であった。もとよりエルムは気配りのできる性分らしく、時間を経て仕事に慣れてきてからの気の配り様は、正に痒いところに手が届く、とでも言ったものか。とにかくエルムは、まだ緊張が多少残っているものの近侍としての仕事を全うしている

『姫様ー、朝食の用意が整いましたー。お着替えはお済みになられましたかー?』
「…ぅおっ、もう出来たのか!すまん、まだだ!」

なんて物思いにふけっていたら、気づけばそこそこ時間が経っていたようだ。急いで着替えなければ

『…あっ、アリア様。おはようございます』
『おう、エルムか。朝早くからご苦労』

部屋の外から、エルムと母様の会話が聞こえてくる。母様も目を覚ましたようだ

『プリシラはまだ寝ておるのか?』
『いえ、只今お着替え中で…』
『ほう……おいエルム、プリシラの着替えを手伝ってやれ』
『え……えぇっ
#8265;何を仰って……』
『いいから、行ってこい』
『ぁ……ぅ……は……はい……』

……ん?

ガチャ「……ひめさまっ…!お…おおお手伝いっ…いたしますっ!」
「ぎゃーっ
#8265;なな…なに入って来とるんだお前は!」

突然、エルムが扉を開けて部屋に入ってくる。着替えている途中で下着姿だった私は咄嗟に毛布を集めて体を隠す

「ご…ごめんなさいっ…!ひめさまっ……ですが…うぅ…」
「くははっ!お前がさっさと着替えんからだ!そんなにダラダラしたいなら二人でゆっくりするがよい!」

エルムの肩越しに母様を見ると、ゲラゲラと笑っている。よくよくエルムを見ると、顔は真っ赤、体の動きはまるで無理やり動かされているかのように不自然で、目尻に涙を溜めながら
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