突然だが、俺は仕事をクビになった
別に俺が何かミスをしたわけではない。むしろ普段から仕事熱心だとみんなから褒められ、頼られる位だった。では何故か?
横暴な上司のやらかした大ポカを押し付けられたのだ
勿論抗議はした、それでもその無能上司の権力に勝つことはできなかった
友人や先輩も頼った、しかしそいつらは上司のやらかしたミス自体を知らなかった所為か、あろうことか権力を振りかざす上司の方を信じやがった
(はぁ……これからどうすりゃいいんだよ………)
毎日の仕事がなくなると、途端に何もすることがなくなる。自分がどれだけ無趣味な仕事人間だったのかを思い知らされる
俺は今、毎日の習慣通りにスーツに着替えて家を出たが、しばらく歩いてからリストラになったことを思い出し、職を失った人間のテンプレートのように朝っぱらから公園のブランコに揺られている
公園の外を眺めると、通勤通学でせわしなく動く人々。昨日まで俺もあの中に居たはずなのに、こちらに少しの視線すら向けない彼らを見ていると凄まじい疎外感を感じて居心地が悪い
(………あー……くそっ……)
こんなところにいてもなにも変わらない。取り敢えず今日は家で寝よう。落ち着いたらこれからのことを考えて……
(……あ?)
ふと、家に帰ろうと顔を上げると、目の前に誰かがいた
金髪の少女だ。見た目からして小学生だろうか?だが、その少女はランドセルやカバンは持っていない。こんな時間に手ぶらで公園にいるのは些か不自然だと感じる
その少女は公園の真ん中に突っ立って俺のことをじーっと見つめている
「……お嬢ちゃん、なんか用か?」
「お兄ちゃんは何してるの?お仕事は?」
「ぐはっ…」
言葉のナイフが心を抉る。子供であるが故の純粋で鋭い一言だった
「…お兄ちゃんはな、お仕事クビにされたんだ」
「あ!私知ってる!それリストラって言うのよね!えっと…セチガライ…?わね!」
楽しそうに励まされた、のか?こいつにはまだ事の重みが理解出来ないのだろう
(……こいつ、よく見るといい身なりしてやがるな)
目の前で楽しそうにしている少女の服を改めて見る
一目見て思い出すのは有名な童話「不思議の国のアリス」、このご時世には時代錯誤とも思える水色と白の衣装、綺麗な金髪も相まって再現度は高い
(こんな服着てるなんて……家も良いところなんだろうな)
この無邪気さからして、相当親から甘やかされて居るのだろう。不幸の真っ只中で捻くれ気味な俺は勝手ながらにそんな邪推をしてしまう
(………今の俺にゃもう失う物も少ない。ならいっそ……)
「…?どうしたの、お兄ちゃん」
「ん……あぁ……なぁ…お嬢ちゃん、お名前はなんて言うんだ?」
「私?リーナって呼んで!」
「そっか。じゃあリーナちゃん、お腹は減ってないかい?」
「お腹…ペッコペコだわ!今さっき起きたばっかりで朝ごはんもまだなのよ!」
「そうか…それはちょうどいい……」
「いまからお兄ちゃん、家でホットケーキを焼こうと思うんだ。食べにおいでよ」
「本当
#8265;蜂蜜はある
#8265;」
「ああ、あるよ」
「バターは?マーガリンじゃなくてバターよ?」
「もちろん、なんならアイスクリームも乗っけてあげよう」
「アイス……!行くわ!お兄ちゃん大好き!」
俺が誘拐に手を染めた瞬間である
……………………………………………
「じゃあ、ついておいで」
俺はリーナちゃんを先導するように公園を後にするが
「あっ、待って待って!」
「ん………?何してるんだ」
「手、繋ぎましょ」
小走りで俺の横に来ると、俺に向けて手を差し伸べる
「……え、うーん…ちょっと恥ずかしいな」
本音はちょっとどころではない。スーツの男とアリスな少女、一緒にいるだけでも目立つのに手なんて繋いだら怪しまれるのではないか
「そう…じゃあ肩車で我慢するわ」
「うん、それなら……いやそっちのが恥ずかしいよ!」
「なら手を繋ぎましょ!」
ツッコミを入れている間にカバンを持たない手を握られる。小さく、柔らかく、暖かい、久しく触ることのなかった女の子の手は、なんだかすごく触り心地が良かった
「あー…もう、まあいいや。行こうか」
「ええ!パンケーキ〜♪パンケーキ〜♪」
……………………………………………
家に向かう時間にはちょうど通勤通学ラッシュのピークを過ぎたらしく、思ったよりも人とすれ違わなかった。特に難なくマンションの自室にたどり着く
「散らかってるけど、くつろいでて」
「だ…だめよ!ご飯の前にはお片づけしなきゃ!」
「へ?いや、確かに汚いけど、こんなもんだって」
部屋には飲み終わった缶やペットボトル、菓子の袋や適当に畳んだ服の山、確かに綺麗な部屋とは言えないが
「もー!駄目なの!美味しい
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