暑い…

とある夏の昼間

「…………暑い……」

小柄な男性が1人、街中を歩いていた

「まだ7月入ったばっかじゃんかよ…………」

彼の名は天野 晴義(あまの はるよし)、見た目は高校生ぐらいの身長しかないが、これでも社会人である。童顔で、声が高めなのも相まって、初対面に子供だと勘違いされる事もあり、少しコンプレックスを抱いていたりいなかったり
この日は仕事場の改装やらなんやらで早めに仕事が終わった為、こんな時間に街を歩いていた

(普段帰るのは夜だから、少し涼しく感じてたんだな……早上がりもいいのか悪いのか……だな)

そうぼやいたり考えたりしながら歩いていると、心なしか背中を焼く日光が弱まった気がした。上を見上げると、さっきまで輝いていた太陽は分厚い雨雲に隠れ、周りからは、何かが街路樹の葉を叩く音がなり始める

「やばっ、夕立か
#8265;」

一応持って来ていた100均の傘を差そうとするが、ベルトを開いたところで既に体はびしょ濡れになっていた

(あー……間に合わなかった………でも…)

だが、空から降り注ぐ雨水は、日光で火照った体を冷ますには丁度良かった。むしろ、シャワーのようで心地よくすらあった

(たまには…雨も良いかも)

彼は開きかけた傘を閉じ、駆け足でマンションまで帰ることにした

……………………………………………

マンションまでの道の途中、僕は不思議な人とすれ違った

長い黒髪で、透き通るように真っ白な肌の美しい女性。身長は僕より高い…まぁこれはいつもの事だが。このご時世に珍しく、着物を着ていた。荷物は何も持っておらず、当然傘もない。それなのに、雨に濡れるのを気にしていないかのようにぼーっと突っ立っていた

(…………?)

傘が無いのは急な夕立だったので納得できる。だが、なぜ棒立ちだったのか?

気になったので、振り返ってみると

「…………………(ジーーーーーーーー)」

(…すっごい見られてる………)

なぜか女性は僕のことをジーっと凝視していた

「あ…あのー……何か用です…か?」
「………………(ニコッ)」

意を決して話しかけてみるが、彼女はハッとして、ただ微笑むだけ

というか、この女性の服装は。さっきは通り過ぎざまにチラッと見た程度だったので気付かなかったが。着物とは言ったものの、白装束のような薄い物を一枚素肌に羽織っているだけの様だ。下着も付けておらず、雨に濡れた布が肌にペッタリと張り付いて、薄っすらと透けているのでとても目のやり場に困る。スタイルもとても良かったので、余計に

「えーっと…用が無いならもう行くよ?」
「……あら、すみません。つい見惚れてしまって…」

見惚れる…僕にか?不思議な事を言う人だ

(あ、そうだ)

「そうだ、これ良かったら使って。100均の安物だけど」

僕は、使わなかった傘を彼女に差し出す。あんな格好だと風邪を引いてしまいそうで少し心配になったのだ

「え…でも、あなたは……」
「いいんですよ、今雨に打たれたい気分なんです……はい」
「……………」

受け取ってくれないので、傘を開いて半ば無理やり彼女の手に握らせる

「じゃ、風邪ひかない様にね」

とだけ言い残して、僕はマンションまで再び駆け足を再開した

……………………………………………

その後、マンションに着く頃には雨は上がり、夏の熱気と雨の湿気だけが残って、すごく蒸し暑くなった

「あー………。あっちー…」

家に帰るなり、すぐにワイシャツを脱いで洗濯機に放る。そして、この鬱陶しい汗と雨水を流そうとシャワーを浴びに行く……

ピンポーン

…といった所でインターホンが鳴った

(こんな微妙な時間に……セールスかな?)

「はーい、今開けますよーっと………………」

若干の鬱陶しさを覚えつつも、洗濯機に掛けたびしょ濡れのワイシャツを着なおし、ドアを開ける

「どうも。先程ぶりですね、旦那様
#9825;」

そこには、さっきすれ違った不思議な女性が立っていた

……………………………………………

「え…あなた……さっきの?」
「はい」

彼女の手には、僕が渡した傘が握られている、間違い無いだろう

「……ていうか、旦那様って…」
「はい
#9825;」

わずかに顔を赤く染めて頷く
そして彼女はおもむろに地面に膝をついた。まだ玄関なので下はコンクリート、膝は丸出しなので痛そうだ

「えっ
#8265;ちょっと何してんですか
#8265;」

そのまま三つ指を立てて深々と頭を下げて、

「不束者ですが、よろしくお願いいたします」

と、言った

「…とりあえず、そんなとこで座らないで!上がって上がって!」
「はい♪」

こんなところをお隣さんや大家に見られたら、あらぬ誤解を生んでしまう。ひとま
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