ケーキより好きなもの。

 


 ここは魔界の、とある街。
 夜の帳が下りて久しい、街の住民が寝静まる時刻。
 何処か遠くから、ワーウルフ種の遠吠え (性的な意味で) が聞こえてくる。


 そこは、街外れ。 
 ぽつぽつと少数の家屋が点在する、小高い丘の上。
 そこには、遠くからでもよく目立つ、一軒の大きな屋敷があった。

 だいぶ昔にに建てられた物なのか、あちこち傷んで寂れているその屋敷には、
 それでも確かに、手入れが行き届いていて………
  しかし、人の気配は、何処にも無かった。

 寝息の一つも、聞こえてはこない。


 それもそのはず。

 この屋敷の住人は今、地面の下に居るのだから。


 屋敷内の目立たない片隅、大きく頑丈な鋼鉄の扉の奥、石の階段を長々と下った先。
 これまた鋼鉄で出来た扉を開けると、粗末なベッドやボロボロの机が置いてあるだけの、狭くて殺風景な部屋がある。

 そこに居る者に圧迫感を感じさせる、石造りの堅牢な地下室。
 その壁は魔術により補強され、例え直下型地震が起きようとも、崩落する事は無い。
 また、防音対策も完璧で、どんなに大きな音を立てようとも、外には決して聞こえる事は無いだろう。


 例え、誰かがここで、悲鳴や絶叫を喚き散らそうとも。


 日の光は決して入らない、ランタンと蝋燭のみを光源とするこの部屋で。

 空気が淀み、ジメジメと湿気のこもる、カビ臭いこの部屋で。

 一人の少女が、甲高い叫び声を上げていた。


 「…はなせーッ!! ここから、出せーーッ!!!」


 その少女は、手の平より少し大きめ位の、本当に小さな女の子で………

 薄く透ける、花弁を模した衣装を身に纏う、可愛らしい格好に。
 幼い顔立ちに気の強さを窺わせる、軽く吊り上った眉と目尻。
 燃えるような真紅の瞳に、エルフを連想させる、特徴的な尖った耳をして。
 赤銅のショートヘアに、背中に紅く光る蝶々の羽を生やす、彼女は。
 とても人間には、見えなかった。


 フェアリーという名の種族である少女は…部屋中央の、小さな作業台の上に居た。

 ………ただし。


 仰向けのまま、両手両足を作業台の上に、拘束具で磔にされて。


 両手はバンザイの形に。
 両足は、股を広げたコの字を描く形に、手首、足首、太股を固定されている。
 その美しい羽は、背中と作業台の間で押さえられ、動かすことすら、儘ならない。

 彼女は、全く身動きのとれない、あられも無い姿で。
 さながら、蝶々の標本のように拘束されていた。


 「ちょっと聞いてるッ!? これを外してッ!! ボクをここから出してよぉッ!!」


 今の自分の格好に、羞恥と屈辱に頬を染める少女は、作業台の傍らに立つ人影へと声を荒げる。

 こげ茶色の髪の毛に、同じくこげ茶色の瞳。
 華奢な体格ではあるが、肉付きからして、おそらく若い男。
 至って普通のズボンに、白いワイシャツという、何処にでもいそうな出で立ち。
 
 その人影は、ただただ、黙っている。


 「…こんな恰好させてぇ! 絶対許さないんだからッ!! バカッ! 死んじゃ………」

 「うるさいッッ!!」

 「ひッ!?」


 突然、少女の言葉を遮るように、大声で恫喝する人影。
 急に響いた大声に、身を強張らせ、怯える少女。


 「……全部……全部、お前が悪いんだ。 お前が………」


 声を震わせ、怒りを露わにする男。
 その顔は凛々しく精悍な顔つきで、普通にしていれば、美男子と呼べるのだが………

 顔は激情に歪み、肩をワナワナと怒らせ。
 ギュッと握った拳の中で、爪が手の平に食い込む。
 …今の彼からは、その凛々しさや精悍さは、一片たりとも、感じられなかった。


 おもむろに男は両手を振り上げ、バンッと手の平を作業台へと叩きつける。
 ガタンッと、大きく揺れる作業台。

 目を固く瞑り、その衝撃に耐える、作業台中央の、小さな少女。


 「…お前が、あんな事するから。 俺は……こんな事を………」


 男が恨みの籠った目で、少女を睨む。
 怯える少女は、唯一動く顔を逸らして、その視線に耐えるので精一杯だ。


 「……お前が………ッ! 俺の………ッ!!」


 興奮で、一層荒くなる呼吸。
 大きく息を吸い込んだ男は、全身全霊、全力を込めたその言葉を、思いっきり、小さな少女へとぶつけて………

 
 「俺のチンポをッ!! 粗チンなんて言うからぁッッ!!!」




 ………




 …5秒ほど、空気が凍りついた。



 「な、なにさぁっ!! ホントの事でしょぉっ!!」

 「…割とッ! 割と自信あったのにッ!! それを、お前はぁッ!!」

 「…はっ! そんな粗ちんがぁ? 自信過剰じゃぁないのっ!?」

 「その粗チンに
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