雪がチラつき始めた、初冬の夜。
あちこちのご家庭で、一家団欒の声が聞こえてくる時刻。
「……ふぅ。 …クロー、ただいまー」
仕事が終わり、電車を乗り継ぎ、30分。
ようやく帰ってきた、我がアパートの玄関先。
玄関の鍵とチェーンロックをしっかりと掛けて、一息吐く。
帰宅を告げる僕の声は、どうやら相方の耳に、届いたようだった。
「おー。 ノブくんおかえり〜」
リビングのドアの向こうから軽い感じに返ってきたのは、最近同棲し始めた恋人の声。
どこか気の抜けたその声は、仕事で疲れた僕の身体に、染み渡り。
いい感じに、肩の力を抜かせてくれる。
出来れば昨日みたいに、玄関まで出迎えてくれると、尚嬉しいんだけど……
…気紛れな彼女に、毎回それを期待するのは難しい。
「今日はいつもより早かったねー?」
「仕事が思ったより早く片付いたんだ。 残業せずに済んだ」
「そっかー」
君に早く逢いたかったから、仕事を早く片付けたんだ。
……という恥ずかしい言葉は、胸の内に仕舞いつつ。
履き心地の悪い革靴を脱ぎ散らかして、首元のネクタイを緩めて。
くたびれたスーツを脱ぎ脱ぎ、リビングへと向かう。
ガチャッ
ムワァッ
「…ウプ………っ」
…ドアを開けた僕を出迎えたのは、凄まじいまでの熱気だった。
「改めておかえり〜。
……どしたの? そんなしかめっ面して」
「…君のせいだよ、君の」
「?」
かけていたメガネが曇る程の熱気は、暖かいを通り越して、もはや暑い。
何も見えなくなったメガネを額に上げて、僕は思わず、渋い顔になる。
当の彼女は、寝っ転がって頭の猫耳をピコピコ、不思議そうな顔をしているだけだ。
…ホントに何も感じないのか、こいつは。
…とにかく、僕にとって、この部屋の環境はかなりキツい。
部屋中央のコタツにヌクヌクと浸かる、クロの脇を通り抜けて。
〔強〕に設定してある電気ストーブのスイッチを、問答無用で断ち切った。
「ちょぉおっ!? なにしてんの寒いじゃん消さないでよぉっ!?」
「ダ〜メ」
焦った顔で文句を言うクロ。 それを軽く受け流す僕。
再びスイッチを入れられないように、ストーブを彼女の手の届かない所に移動させる。
コタツから出られない寒がりな彼女は、これでもう、ストーブを点ける事は出来ない。
「ぉああ〜〜っ!!? アタシのゆーとぴあがぁぁああっ!??」
「なんだよ、ユートピアって……
……あぁ、もう。 エアコンまで付けちゃって………」
ストーブに向けて必死に手を伸ばすクロを無視して、コタツの上のリモコンを手に取る。
その瞬間、驚異的な瞬発力で飛び起きた彼女が、僕からリモコンを分捕ろうとするも……
…ピッ
「ぎゃあぁぁああっ!!?」
…0コンマ1秒の差で、エアコンの電源を切る事に成功する。
勢い余ってコタツの上に突っ伏される、小柄な体躯。
二又の尻尾は、力無くカーペットの上にヘタれる。
コタツ中央のみかんの山が、衝撃で少し崩れた。
「…ぅう〜〜〜…っ。 生涯の伴侶が鬼畜すぎる件について………」
鬼畜なのはそっちだろう。 電気料金的な意味で。
というか、僕達はまだ、伴侶には至っていない。
……昇進して給料が良くなるまで、もう少し待ってて欲しい。
「何言っても、ダメなものはダメ。 唯でさえ、冬は電気代掛かるんだから………
…それに寒いなら、もっと暖かい格好すればいいでしょ」
「えぇ〜〜〜。 だって、これがアタシの 『あいでんててぃ』 だし」
「………」
僕のもっともだと思う意見も、彼女の屁理屈によって跳ね返される。
そんなマイクロミニの薄手の浴衣なんて着てたら、寒いのも当然だろうに。
…毎度思うけど、一体何処で買ってくるのか。
……まぁ確かに、猫の足跡がプリントされた白い浴衣は、黒い髪と体毛とのコントラストによって、とても良く似合っているし………
……下にはショーツしか身に付けていないであろう彼女の素肌が少し透けて、なんともエロ
「それに〜〜…… …結構好きだよね? このカッコ♪」
「………っ!」
…思わず、たじろぐ。
「ほれほれっ♪ いくらでも、見ていいんだよ〜〜?♪」
目の前に立つ僕に向けて、浴衣の胸元を肌蹴させて、ニヤニヤと挑発してくるクロ。
前屈みな彼女の胸元に出来た隙間から、控えめな膨らみと、白い肌が覗き。
…次の瞬間、その膨らみの先端、淡く色付くピンク色が、ちらりと覗いて………
「……はしたないっ」
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