「ファルシロン! こんなところで働いていましたのね!?」
「あれ? ロザリーさん?」
店の入り口に立っていたのは、この町で最も力のある貴族の御令嬢。
簡単に言うと、この町を治める『領主様の娘』だ。
「このわたくし、ロザリンティア=ファラン=オルレンシアが、『あなた』の顔を一目見に『わざわざ』ここへ足を運んであげましてよ? ファルシロン! 感激に打ちひしがれても良ろしくってよ!」
「………」←ジットリ店長
「お、お久しぶりですロザリーさん。確か、外交の仕事で町を離れていたと聞いていましたが……」
「えぇ。ですから、頭の固い糞爺共を平手打ちして帰ってきましたの。まったく能無しが揃いも揃って、よくもまあ政治家を語れるものですわ! これでは国が衰退して……」
「ま、まぁまぁ。とにかく、お疲れ様でした」
「ふん! まぁ、久しぶりにあなたの顔が見れましたので、今は気分がとても晴れやかですわ♪」
少し毒舌の目立つお嬢様は、真っ赤な瞳が印象的な『ヴァンパイア』。
やや色白の彼女は長い金髪のストレートヘアー。
黒いフリルのワンピースドレスに加え、耳には宝石をあしらった小型のピアス。
金の腕輪はキラキラと眩しい光を放っている。
まぁ外装はさておき、絶世の美女である。
「(あー、随分と派手っすねー)」
「(まぁ、貴族の方ですから)」
「(のわりには口が悪いっすー。お嬢様口調がー完全に存在意義を失ってるっすー)」
「(否定はしませんけど、悪い人ではないんです。うちのリンとも仲が良いんですよ?)」
「(ほー。それはー意外っすねー)」
「そこ! なにをコソコソとしていますの!?」
「す、すみません」
ロザリーさんは不機嫌そうにフンッと鼻を鳴らし腕組みをする。
「で、ファルシロン? そこのチンチクリンな『タヌタヌ』は一体なんですの?」
「あぁえっと、この人は……」
「タヌタヌとはー聞き捨てならないっすねーー」
「て、店長!?」
怒るのそこですか!?
チンチクリンはセーフなんですか!?
「あら、一介のタヌタヌが現領主の娘であるわたくしに何か言いたいことでもありまして?」
「商売の邪魔っすー。とっとと出ていくっすー」
「じゃ、邪魔!?」
店長……あなたはどうしてそうも図太いんですか。
「タ、タヌタヌの分際で…わたくしを『邪魔』呼ばわりしましたわね!?」
「領主の娘だかーなんだか知らないっすけどー、商売の邪魔をする権利はーないはずっすー」
「なっ!?」
「それに結局はー……」
あ、地雷の予感。
「親の七光りっすよねー?」
「うっ……」
ロザリーさんは苦虫を噛み潰したような表情で、瞳にはジワリと涙が。
店長は僕に、「どうだ、説き伏せてやったぞ?」みたいなドヤ顔を披露してくる。
いや、僕どう反応すればいいんだろう……。
「……ふん! 好きなように言わせておきますわ! タヌタヌがいくら正論を並べようとも、所詮はただの妬み……痛くも痒くもありませんわ!」
「………」
ロザリーさんも意外と逞しい。
「コホン…わたくしとしたことが、少々取り乱してしまいましたわ」
「ヒステリーってやつっすねー」
「お黙り!」
ロザリーさんは店長の茶々を一喝。
若干乱れた髪や服装を綺麗に整え、改めて僕の方へと向き直る。
「ファルシロン? あの時の約束、もちろん覚えていますわね?」
「………」
一瞬間を空けて、
「許婚の件、ですね?」
「ふふっ、ちゃんと覚えていましたのね? 嬉しいですわ♪」
僕が許婚という言葉を発したと同時に、店長の顔色が急に変わったように見えた。
「わたくしとあなた、そろそろ成人を迎えますでしょ? ですからこれを機に、正式に『結婚』してはどうかと、お父様とお母様が……ああ! いけませんわ!?」
「え? どうしたんですか?」
「あなたに会うことで頭がいっぱいで…お父様とお母様へ挨拶に伺うことをすっかり忘れていましたの! あぁ! 早く屋敷に戻りませんと!」
そしてロザリーさんは慌ただしく店の外へ出ると、
「ファルシロン! 話の続きは、また後日改めて!」
「え? あ、はい」
「それと…そこのタヌタヌ!」
「っすー?」
「『NTR』など考えないように! ファルシロンは…わたくしのフィアンセですことよ!?」
そう言うや否や、もの凄い速度で走り去っていった。
というか、良くあんな格好で残像残す程のスピード出せるなぁ。
魔物だからという理由で片づけるのはどうかと思うが……。
「ロザリーさん、相変わらずだったなぁ」
「………」
「? 店長?」
ゲシッ!!
「おっほ!?」
店長にミドルキックされた。
それも太腿とお尻の間のちょうど弱いところに。
「い…いててて……もう、何するんですか……」
「あのお嬢様とはー…一体どういう関係なんすか
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