5品目 『ここからが本番』

「店員さん、コレくださ〜い」
「あ、はい。こちらで承りますね」

店長の下で働き始めて、およそ1週間が経過した。
商品の包装などの細かな作業に苦戦しながらも、少しずつ雑貨店の仕事に慣れつつあった。
接客に関しては、幸いにも客受けは良いと店長からお墨付きをもらった。
ただ1つ、いまだに解決の兆しが見えないことが……

「全部で、840エルになります」
「あら? いつもと値段が違いますよ?」
「え……あ! す、すみません!」

星の数ほど存在する、商品それぞれの値段。

「ほ、本当にすみません! 大変失礼を……」
「いえいえ〜気にしないでください。新人さんには大変だって、ちゃんとわかってますから〜」
「はい、今後は気をつけますので……」

金額のミスはこれで何度目だろうか……。
1番辛いのは、僕がわからないのに相手が金額をわかっていること。
まぁ、陳列棚にそれぞれの値打ちが表記されているから、お客はそれを足すだけなんだけど……。
それでもなにか、こう……従業員としてのプライドが許さない、というか……。
とにかく、常にそんな切ない気分を味わっている。

「店員さん、早く精進してくださいね〜?」
「が、頑張ります」

そう言うと、女性客は軽快な足取りで店を後にする。
はぁ……優しい人で良かった。

「調子どっすかー?」
「あ、店長」

店の奥からイチカ店長が登場。
どうやら作業中だったようで、服の上からエプロンを着用していた。
どうでもいいけど相変わらず眠たそうだ。

「あーその様子だとー、また失敗したっすねー?」
「あ、あはは…お見通しですね」
「慣れるまではー我慢してほしいっすー。商品に値打ちを付けるのはー、うちの流儀に反するっすよー」
「あぁはい、それはもちろんわかってますよ」

そう、金額ミスの要因は聞いての通り。
まぁ店長のコダワリとあらば、僕はそれに従う他ないわけであり。

「まー前も言ったっすけどー、接客自体は問題ないっすよー。元々人当たりイイっすからねーシロさんはー」
「あ、ありがとうございます」
「それにー最近は不思議と客入りがイイっすー。特に女性客が増えてるっすねー」
「え、そうなんですか?」
「っすー、どうしてっすかねー?」
「さぁ、どうしてなんですかね?」
「………」

視線ジットリ。

「自覚ないところがーさすがっすねー」
「え?」
「ここしばらくー、女性客から話しかけられたことあったっすかー?」
「あ〜、はい。何度か」
「どんなこと話したっすかー?」
「えっと……名前教えてください、とか…歳はいくつですか、とか?」
「……ほほー」

視線ギロリ。
あれ、睨まれた……。

「お客とイチャつくのは止めるっすー。ちゃんと仕事するっすー」
「イチャついてませんって! というか、店長が愛想良くしろって……」
「口答えは許さないっすー。もう減給っすー、反省するっすー」
「あの〜、僕既にタダ働きなんですけど……」

また店長は良くわからないことを……。
優しくしてくれたと思ったら、急に怒り出すんだもん。
リンもそうだけど、店長も難しい年頃なのだろうか。
……あれ?
そういえば店長の年齢を、僕は知らない。

「………」
「? なんすかー?」

ダメだ、聞けない!
色々と怖い!
あーもう! 
なんで僕はこうもヘタレなんだ……。

「まー無駄話はさて置きーシロさん、1週間働いてー何か気づいたことあるっすかー?」
「そう言われても……あ、店長が意外とがめつい?」
「そーゆーことじゃないっすー。というかーがめつくて何が悪いっすかーー」
「否定はしないんですね」

おぉ、珍しい。
店長がちょっと怒った(ような気がする)。

「もーストレートに言うっすー」
「はぁ」

なんだろうか。
店長の様子から察するに、あまり重要なことではないとは思うけど。

「実はーうちの雑貨店なんすけどねー、人間のお客さんの中にー稀に魔物が紛れ込んでることがあるっすー」
「へぇ、そうなんですか」
「………」
「………」
「……反応薄くないっすかー?」
「え? いや、だって……」

あれ、もしかして店長知らないのかな?

「この町は昔から、魔物との交流がそれなりに深いんですよ? 近場から言っていくと……2軒お隣の芸術家、リャナンシーのリーンベルさん。酒場のオーナーで、ホルスタウロスのマオさん。保安官でダンピールのレティスさん。大工でゴブリンのノイルさん。シスターでダークプリーストのマリアさん。郵便局員でクノイチのシノブさん。あとは……」
「もー十分っすー……」

気がつくと、店長は肩をガックリと落とし項垂れていた。

「うちはーダメな狸っすー……店を構えた程度でー調子に乗ってたっすー……」
「あ、あの〜、店長?」
「慰めは不要っすー……うちはどうせー商売地区の
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