4品目 『どちらかと言えばS』

「先日は、本当にすみませんでした」
「もー気にしてないっすからー」
「いや、そういうわけにも……」

数日前、妹のリンが店長に本性剥き出しで襲いかかった件。
リンの興奮が治まらず半ば強引に連れ帰ってしまったため、ろくに謝罪をすることができなかったのだ。
というわけで本日、改めて店長に先日の失礼をお詫びに……といった次第であります。
ややこしくなる可能性があったので、当事者のリンにはあえて欠席してもらった。

「もー頭を上げるっすー」
「でも……」
「うちもー、少しオーバーだったっすー」

店長は申し訳なさそうに、

「そもそもーあんな凄まじい勢いでモフモフされたことがー、生まれて初めてだったっすー。さすがのうちもー少し驚いたっすよー」
「申し訳ない……」

そして店長は、頭を下げる僕の頬を両手で挟むようにして、グイッと持ち上げる。

「)´ω`(;」
「シロさんがー誤る必要はないっすー。あとー、妹さんもー別に悪くないっすよー」
「ふぇ)・ω・(?」

ん、どういうことだろうか?
というか、頬を挟まれているせいで上手く喋れない。

「尻尾に触れられることがー、別に苦痛じゃないってことっすー」
「ほ、ほうなんへふか?(そ、そうなんですか?)」
「むしろー優しく撫でられるのがー好きなくらいっすー。あんまりハードなのはNGっすけどねー」

あぁ、じゃぁリンのはダメだ。
ハード通り越してカオスだ。

「まーそゆことっすー。シロさんがー頭を下げる理由はなくなったっすー」
「う、う〜ん……」
「……律儀過ぎるのも問題っすねー。まだー納得してないっすかー?」

ここでようやく両手から解放された。

「店長がそう言ってくれるのは、凄くありがたいですけど……」

正直僕としては、「今後は気をつけるっすー」とか「妹さんにどんな教育してるんすかー」みたいな、いわゆる直接的な言葉が欲しかった。
まぁ遠回しにそう言っているんだろうけど、店長から一方的な譲歩を受けたようでどうにも落ち着かない。

「シロさん、正直めんどくさいっすー」
「す、すみません。自分でも、どうして納得いかないのかわからなくて……」
「まーその面倒なところもー、嫌いじゃないんすけどねー」
「へ?」

店長は陳列棚の品物を綺麗に整えながら、

「たぶんシロさんはー、うちに対してー贖罪したいのかもしれないっすねー」
「贖罪、ですか」

近いと思った。
自分の罪を何らかの方法で償う……それが贖罪。
あ〜自分で言うのもアレだけど、なんだか僕ドMにしか見えないなぁ……。

「ドMっすねー」
「心の中を読まないでください!」
「冗談っすー。義理堅いんすよーシロさんはー」
「そう、なんですかね?」

義理堅いなんて、あんまり言われたことはないんだけどなぁ。

「そんなシロさんに朗報っすー。手っ取り早く罪を償うー良い方法があるっすよー」
「そ、そんな方法が?」

店長から耳打ち。
……なんか、こそばゆい。












「というわけでー、シロさんが感じた罪の重さ分、しばらく働いてもらうっすー」
「えっと、よろしくおねがい、します……?」

あれ、なんか急遽バイトすることになってしまった。

「あの店長、具体的にはどれくらいの期間働けばいいんですか?」
「それはー、シロさん次第っすねー」
「うっ……」

店長ニヤリ。
僕苦笑。

「まーあんまり気負うことはないっすー。気楽にやるっすよー」

僕の感じた罪の重さ分……上手い言い回しだ。
その期間が長ければ長いほど、僕自身の反省の度合いがそれに比例して大きくなるということ。
逆に短いなら……言わずもがな。

「正直ありがたいっすー。『無給』でご奉仕なんてーなかなかできないっすよー?」
「が、頑張らせていただきます」
「妹さんのためにここまでするとはーシロさん、もしやシスコンっすかー?」
「違―――」
「わないっすよー。シスコン確定っすねーははー」
「そ、そんな……orz」

……自分のめんどくさい性格を心から呪った。
まぁでも、

「っすー♪」

………。
店長の、あんなに嬉しそうな顔が見れたんだ。



無給? とんでもない。
僕にとっては、既に十分なご褒美だ。





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12/07/25 13:26更新 / HERO
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