深夜。
僕は自室のベッドの上で読書に勤しむ。
これは僕の趣味であり、日課でもある。
ペラ……
静かな夜にゆったりとした時間を過ごす。
そんなことかと思うかもしれないけれど、僕にとってはこの上ない幸せだ。
ペラ……
あ、言い忘れていた。
ベッドの上には、僕以外にもう1人。
「ねぇお兄ちゃん」
「ん、なに?」
「最近さ、良くそこのお店で買い物してこない?」
「あぁ、うん。近くて安いし、品揃えもいいから」
「ふ〜ん?」
妹のリン。
3つ年下の16歳。
ややツリ目の瞳は、僕と同じく淡い碧眼。
こちらの地方では非常に珍しい、黒髪のツインテールっ娘(今は就寝前のため下している)。
その名の通り凛とした、とてもしっかりした妹だ。
母親曰く、リンが男の子だったら『ジークフリード』という名前を付けていたらしい。
そんな馬鹿な。
どんだけ厨二なんだよ。
息子ながら、小説家である母の考えることがまったく理解できない。
「リン、気になることでもあるの?」
「ん〜気になるっていうか、お兄ちゃんがあのお店に入り浸るなんて意外だな〜って」
「え、そんな風に見える?」
「うん、あたしにはそう見えるわ」
リンはベッドの上で足をパタパタと遊ばせる。
というかこの妹、兄のプライベートルームに平然と割り込んでくる。
別に読書を邪魔するわけでもないのだが、何故だか僕の傍にいたがる。
う〜ん……この年頃の女の子はわからん。
「はぁ……遂に、お兄ちゃんにも春がきたんだ」
「春? 今は秋だけど」
「……鈍チン」
「?」
リンからジットリとした視線が。
「というかリン。日付も変わってるし、そろそろ寝た方がいいって」
「いやよ。お兄ちゃんが寝るまで寝ないから」
「またそれか……」
「どうしてもって言うなら、お兄ちゃんと一緒に寝てあげるわ♪」
「じゃぁ、一緒に寝ようか?」
「えぇ。それじゃ、お兄ちゃん電気消して?」
「ごめん、嘘……」
「こんのヘタレ!」
翌日。
「店長、おはようございます」
「っすー。朝から珍しいっすねー?」
「今日は休日なので。それと……」
僕の背中から妹のリンがヒョッコリと顔を出す。
「こ、こんにちは」
「おやー? シロさん、そちらのお嬢さんはーどちら様っすかー?」
「僕の妹です。このお店の話をしたら、どうやら興味が湧いたみたいで」
「ははー、どうりでクリソツなわけっすー」
店長はニヤニヤしながら僕とリンを交互に見比べ、しきりに頷いてみせる。
「は、初めまして…妹のリンです。兄がいつもお世話になっています」
「あー、ご丁寧にどもっすー。お兄さんの面倒を見ているー、店長のイチカという者っすー。好きなように呼ぶっすよー」
あの〜店長、僕がヒモみたいに聞こえるんですけど。
「あ、はい。えっと、じゃぁ……イチカさん?」
「………」
店長から僕にジトっとした視線が突き刺さる。
あぁ、彼女は『さん』付けされるの嫌がってたっけ。
だからって、どうして僕?
前もって教えておけってことかな?
「はー、まーそれでイイっすー」
……イイんだ。
……人によってはイイんだ。
「ねぇお兄ちゃん」
「ん?」
「イチカさんに、その…私的なお願いとかしても大丈夫? 気を悪くしたりしないわよね?」
「あ〜うん、大丈夫だと思うよ。あんまり無茶なこと言わなければ」
「そっか」
リンが店長にお願い?
なんだろう、取り寄せとかかな?
「あの、イチカさん。1つお願いがあるんですけど……」
「うちにできることならー、やぶさかじゃないっすー」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
今まで緊張していたリンが急に元気を取り戻す。
「じゃぁ、イチカさんの尻尾……触らせてください!!」
「あー……」
店長の顔が微かにひきつる。
あぁ、嫌っぽいなコレ。
「あの、イチカさん?」
「あー、そのー、ほむー」
うわ〜苦しそうだ。
やぶさかじゃないとか言っちゃったし、断るに断れないって感じだ。
「……?」
店長からアイコンタクト通信が入った。
(なんとかするっすー)
(妹は1度言ったら聞かないんですよ。諦めてください)
(そんなー、後生っすからー)
僕は断腸の思い(嘘)でその通信を断つ。
まぁあれだ、いつもイタズラされている仕返しということで。
「イチカさ〜ん…フフフッ」
「はわー、犯されるっすー」
妹は手をワキワキとくねらせながら店長を角へと追い詰める。
対する店長は自分の尻尾を抱えてプルプルと震えている。
「そこだ!」
「いやーーー」
あ、捕まった。
「うううわあ〜〜〜♪ モ〜フ〜モ〜フ〜〜〜
#9829;」
「離れるっすーー尻尾に顔を擦り付けるのはやめるっすーーー」
「う〜〜〜ん♪ 抱き枕にした〜〜〜い
#9829;
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