11単位 『軽音部?(前編)』

気がつけば冬。
魔界にも季節という概念があるようで、最近は厚着をして過ごすことが多くなった。
いやそもそも、この魔立酷視姦大学には空調設備というものが一切存在しない。
そんな馬鹿な!
腐っても大学だぞ!?

「ハ…ハ……ハッックショイ!!!」
「まったく、随分と派手なくしゃみだな」
「主様、大丈夫ですか?」
「う〜ん…風邪とかではないと思う」

ちなみに今いるのは俺達PT専用の宿舎内。
半円形のソファーで向き合うように座っている(内1名は空中をフワフワ)。
部屋の中は広々としており、10人は余裕で収納できる程のスペースは十分にある。
自炊するためのキッチンや浴槽付きの豪華なシャワー室、生活に必要な家具も一通り揃えられていて、一言で言えば至れり尽くせり……なのだが。

「わたしは〜別に大丈夫よ〜?」
「私もだ。寒いと思ったことなど1度もない」
「ダメですよ、お2人共。主様は生身の人間なんです、小生達魔物と一緒にしてはいけません」
「脆弱ですみません……」
「ぬ、主様を責めているわけではありませんよ!?」

俺の膝の上に両手を乗せアワアワとするコヨミさん。
おおう…珍しい光景だ。

「ロイ君も不便な身体してるよね〜? 防御力は高いのに〜」
「いろんな意味でマリィのことが羨ましいよ」
「だったらお前も霊体になってみるか? 私が手伝ってやるぞ?」
「怖いこと言うな!」
「レイラ、なんてことを言うのですか!? 主様を亡き者にしようなどと!」

そうだそうだ!
コヨミさん、もっと言ってやれ!

「霊体にしなくとも、小生と交わり続ければインキュバスとして生まれ変わり……」
「う〜〜ん! この大学はなんて快適なんだろうあはははハハハHAHAHA!!!」

寒い?
ナニソレオイシイノ?












某日。

「ただいま〜」
「おかえりなさいませ、主様」
「ロイ君おっか〜」
「おい、どこへ行っていたのだ?」
「ん、ちょっと理事長に呼び出しくらってさ」
「またあのクソロリババァか……!」
「レイラ、女の子が『クソ』などと口に出してはいけませんよ? せめて『ロリババァ』と言ってください」
「う、うむ」

ババァは良いんだ。

「それでロイ君、理事長はなんて〜? もしかして、わたしのこと〜?」
「あ〜、うん。半分はマリィのことかな」
「ということは、また何かのご依頼ですか?」

理事長からの呼び出し=依頼というのが最近鉄板になりつつある。
いや、依頼というか強制労働?

「依頼って程でもないけど…ほら、マリィがサークル管理責任者をクビになっただろ? 最近その後任を見つけたみたいで、一応サークル棟の様子を見に行けって」
「まったく……またその類か」
「特に何かする、ということではないようですね?」
「まぁ…そうなんだけど。理事長が、『様子見ついでに面白そうなサークルがあれば参加するのも良いのではないかのう?』って」
「はぁ、なるほど」

サークルの話は恐らく理事長の好意。
様子見に行かせることをはぐらかすための口実でないと信じている。
……信じてますよ、理事長。

「主様、御供致します」
「コヨミさん、ありがとう」

龍の化身であるコヨミさんが真っ先に同行を申し出てくれた。
よし、ということはレイラも……

「私はパスだ」
「……え? どうしてさ?」
「ババァの言いなりになるのはもうゴメンだ。コヨミ、ロイを頼んだぞ」

そう言い残すと、レイラは部屋から出て行ってしまった。

「レイラ……もう、仕方ないですね。申し訳ありません主様、レイラを責めないであげてください」
「いやいや、そんなことしないって。理事長に使われるの前から嫌がってたし、無理に連れていくのは可哀想だよ」
「主様……」

コヨミさんはポッと顔を赤くする。
あれ、なんでコヨミさんの好感度上がってるんだ?
レイラをフォローしただけなのに。

「あ〜じゃぁわたしもパs……」
「マリィは強制的にって理事長が」
「そ、そんな〜!?」
「マリアベルさん? 前任者なんですから、後任の方にご挨拶へ伺うのは当然ですよ?」
「ふぁ〜い……ふえ〜ん;;」

哀れ、マリィ。
というかコヨミさん、容赦ない。












サークル棟にて。
任意同行のコヨミさんと強制連行のマリィを引き連れ、歓喜や悲鳴の飛び交う雑然とした廊下をゆっくりと歩く。
あぁちなみに、さっき後任の責任者の人に挨拶がてら近況を聞いてみた。
まっっったく問題ないとのこと。
むしろこんな楽な役職を放り出すアホな魔物が存在するのだろうかと前任者をボロクソ言っていた。
もちろんマリィは名乗り出ることができず、俺達の後ろでシクシクと泣いていた。
可哀想だけど、こればっかりはどうにもならない。
果たしてこれがマリィの人生のターニングポイン
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