5単位 『Mr.酷視姦』

某日、酷視姦大学のとある講義室にて。

「ありがとうレイラ。もう大丈夫だよ」
「律儀に講義など受けるている場合か? まだあの時(争奪戦)の傷が完全に癒えていないのだろう?」
「うん、そうなんだけどさ。でもやっぱり俺、4年間で卒業したいんだ」
「勝ったからこそ、というわけか……ふん、馬鹿なお前らしいな」
「ははっ、褒め言葉として受け取っておくよ」

弁当争奪戦を制した俺は、その名誉と引き換えに大きな怪我を負った。
今は随分と良くなってきてはいるが、最初の数週間はレイラに相当な気苦労をかけてしまった。
理事長の治癒魔法だけでは完治せず絶対安静と宣告された俺を、レイラは今日に至るまでずっと面倒見てくれていた。
今だって、彼女の肩を借りてようやく講義室に到着したところだ。
レイラ曰く『暇だから面倒を見ているだけだ』、とのこと。
まぁ真意の程はわからないけど、とりあえずそれで納得した。

「人間とは本当に脆弱な生き物だ。何故こんなにも傷の治りが遅いのだ?」
「いや〜そう言われても……人間とはこういう生き物だから、としか言えないよ」
「まったく……」

時折このように愚痴る姿を目にするが、

「なぁ、レイラ」
「なんだ? 言い訳でもするつもりか?」
「……ありがとう」
「っ! べ、別に! 礼を言われるようなことはしていない!」
「それでも、さ。言わせてくれ……ありがとう、レイラ」
「……ふん!」

『逆姦科』の講義中、レイラは1度も俺と顔を合わせようとしなかった。
俺もなんだか気恥ずかしくて、彼女の顔を見れなかったけど。
でも、なんだろう……凄く、居心地がいい。
初めて体験する、不思議な感覚だ。












ロイPT専用宿舎にて。
本日全ての講義を終え、ようやく自分達の寮へと戻ってきた。

「はぁ〜あ! やっぱり自分の部屋が1番落ち着くな〜」
「私はシャワーを浴びてくる……覗くなよ?」
「お、おう」

1度お互いの裸を見合った仲だし、別にいいじゃんそんなこと!(2単位参照)
な〜んて口走りでもしたら消し炭にされること受けあいだ。

「ふぅ……レイラじゃないけど、人間ってホント不便な体を持ってるよなぁ」

体が成熟するだけでも長い年月が必要。
鍛えてもその成果が目に見えるまで途方もない努力が必要。
怪我をしたら動くことすらままならず、人によっては一生治らないことだってある。
でも……それが人間なんだ。
俺は人として、この世に生を受けたことを感謝しなければならない。
人間って素晴らしいな!
うん!

「………」

……なんで俺は、こんな精神論みたいなことを考えているんだ?
妙な講義ばかり受けさせられ疲れてるのかな?
あ〜、きっとそうだな。
今思えば、なんだよさっき逆姦科って。
あの科目が将来俺にどんな利益をもたらしてくれるんだ?

「ふぁ〜〜…一眠りするかなぁ」

考えるのも面倒だ。
豪華なソファをベッド代わりに、俺は一時の休息をとることにした。












「ふふふ…あなたは意外と…昔から……」
「……だから…あいつを…そういうわけには……」


ふと目が覚めると、レイラは見知らぬ女性と何やら話し込んでいた。
知り合いか何かかな?
とにかく会話の内容が気になるので、気づかれぬよう聞き取りやすい体勢に変える。

「殿方と寝食を共にするなんて、以前のあなたからは想像もできません」
「仕方なくだ! だから、お前が思っているほど特別なことは何もない」
「そうですか? 満更でもないように見えますけど?」
「そ、そんなことは……」
「隠さなくても分かります。レイラ、あなたは変わりました。そこで聞き耳立てている殿方によって、ね」
「!」

なっ…ばれてた!?

「盗み聞きとは、いい度胸だな?」
「ご、誤解だって! 今目を覚ましたところだよ!」
「ふふっ、嘘の苦手な御仁ですね」
「うっ……」

な、なんだこの人……俺を、まるで全てを見透かしたような目で見つめてくる。
ただ者じゃないってことは、鈍い俺でもなんとなくわかる。

「ふん、まぁいい……こいつは私の旧友だ。どうやら同じ大学で学んでいたようだ」
「気づかなかったの?」
「これだけ広い場所ですから、特定の人物を捜し出すことは至難の業でしょう」
「あぁ、そりゃそうか。でもそうしたら、どうしてレイラの居場所を?」
「あなた方はちょっとした有名人ですから。入学したばかりの1年生が購買部での争奪戦を制したと、今や大学のどこへ行ってもこの話題で持ち切りです」
「ぇえ? そうだったの?」
「そうでなくても、あなたは人間の男性。争奪戦の話が浮上する前から有名でしたよ?」
「は、はぁ」

今俺が話している相手は、腰に長刀を帯刀させた『龍』の女性。
服装は……確か東方の袴というやつだろうか。

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