「♪♪〜〜♪〜♪♪♪〜〜〜♪」
「♪〜♪〜♪〜〜〜♪」
「………」
私は仲間達の歌を、ただ黙って聞いている。
男を誘惑するための、セイレーン特有の歌声。
私はその歌声を、ただ黙って聞いている。
「ソフィア? またそんなところに1人で……」
「……放っておいて」
「もうずっと昔の事じゃない。 いい加減忘れたら?」
「………」
できるものなら、とっくにそうしてる。
「あなたが歌を嫌い始めてから、もう3年も経つのよ? ちょっとで良いから歌っておかないと、その内声が出なく……」
「いいから放っておいてよ!」
「ちょ…ソフィア!?」
思わずその場から逃げ出す。
いくら優しくされたって、私は絶対に歌わない。
「うっ…うぅ……」
そう…決めたんだから……。
「♪〜♪〜♪〜♪♪」
3年前。
私は歌が大好きな、どこにでもいる普通のセイレーンだった。
歌うことが私の全て。
私の周りには、歌が当たり前のように存在していた。
「♪〜♪〜♪〜♪♪」
当然、素敵な出会いなんかも期待していた。
「ソフィアーー! ニュースだよニュース!!」
「ミンク? 何かあったの?」
「実はアタシね……彼氏ができました〜〜〜♪」
「へぇ〜! 良かったじゃない」
遂にミンクも、好きな人と一緒になれたんだ。
「ありがと〜♪ ソフィアが応援してくれたおかげだよ♪」
「そんな、私は何も」
「ううん、絶対にソフィアのおかげ! あなたはアタシが落ち込んでた時、『自信を持って』って励ましてくれた」
私はただ背中を押してあげただけ。
「ソフィア…本当にありがとう!」
「お幸せに!」
「うん♪」
仲間のセイレーンは私に手を振りながら空へと消えて行った。
「いいなぁ……」
凄く羨ましい。
私も、あんなふうに幸せになれるのかな?
とある雨の日。
私は雨宿りのできる場所を探していた。
とりあえず街の路地裏にでも退避することにした。
「はぁ……羽がびしょびしょ」
住処はこの街からまだけっこうな距離がある。
羽も濡れて危険なため、完全に雨が止むまで動けなくなってしまった。
「あ〜あ、早く止まないかなぁ」
仲間達も心配しているだろうし、一刻も早く帰らないと。
そんな事を考えながら途方に暮れていると……
「あ〜もしもし? そこのお嬢さん?」
「っ!?」
急に声をかけられた。
「そんなに警戒しなくていいよ。 僕はただのスカウトマンだから」
「……すかうと…まん?」
「要するに、仕事をしてくれる人を探すのが仕事って言うのかな?」
「………」
良く見ると、男は黒のスーツにビシッとしたオールバックで髪を固めていた。
「なんの用…ですか?」
「君、僕の店の舞台で歌わないかい?」
「!」
願ってもない申し出だった。
「本当、ですか!?」
「あぁ! 君さえ良ければね」
「でも私…魔物、ですよ?」
「知ってるよ。 セイレーンだろう? だからこそさ」
偶然にしても、まさか私が舞台に立てるなんて!
とても信じられなかった。
「まぁそこまで大きな店じゃないんだけど。 酒場の中規模な舞台だと思ってくれて構わないよ」
「歌います! いえ、是非歌わせてください!」
私の歌を多くの人に聞いてもらえる!
それにもしかしたら、お客さんの中に素敵な人がいるかもしれない。
「引き受けてくれてありがとう。 早速店に案内するよ………クククッ」
今でも悔やんでいる。
もっと疑うべきだったと………
「僕が合図したら、舞台の袖から出てきてね」
「は、はい」
「あんまり緊張しないで。 お客さんは皆良い人達ばかりだから」
「が、頑張ります!」
そうは言っても、やっぱり緊張してしまう。
何といったって、夢の『舞台』に立てるのだから。
「す〜……はぁ〜」
セイレーンにとって舞台に立つという事は最高の誉れ。
どんなに小さな舞台であろうと、それが名誉なことに変わりはない。
しかし魔物という立場上、なかなか現実味を帯びない話である。
「………」
でも…私はそれを実現させようとしている。
失敗できない。
絶対に成功させる。
そう自分に言い聞かせる。
「(どうぞ、出番です!)」
「………!」
合図を受け、舞台へと足を進める。
垂れ幕の向こうで、一体どれ程の人が私を待っているのだろうか。
考えただけで鳥肌がたってしまう。
「ふぅ……」
舞台の中央で足を止め、気持ちを落ち着かせるために目を閉じる。
そして、幕の上がる音が微かに聞こえてくる。
「………」
もうこんな事、この先1度も訪れないだろう。
だから……私の全てを歌に込めよう。
そう決意し、ゆっくりと目を開ける。
「………」
そこで、私が目にしたもの。
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