「へぇ…けっこう大きな町だなぁ」
「そうだよ。 ちなみに地名は『港町ウラノス』っていうの!」
「ウラノスか…確かここからヘルゼンに行けるはずなんだけど……」
「ヘルゼン? どこそれ?」
「俺の兄貴が住んでた村だよ。 兄貴は魔王を討つための旅をしてた」
「ふ〜ん……あれ? ゼロはどうしてお兄さんと暮らしてないの?」
「あ〜それなんだけど……」
あんまり話したくないんだけど……まぁいいか。
「俺達の家は貧乏だったらしくてさ、息子二人を養う金が無かったらしい」
「お父さん、頑張っちゃったんだね…」
「黙って聞いてろ…。 んで両親は、俺を祖父母の家にあずけたんだ」
「島流し?」
「ある意味そうだな。 言い方は良くないけど」
おかげで俺は親の愛情を知らない。
でも爺ちゃんと婆ちゃんは優しかった。
この二人のおかげで、俺は両親を恨むことをしなかった。
「でもいいの? お爺さんとお婆さん置いてきて…」
「あぁ、二人は数年前に死んだよ。 同時期に両親も…旅から帰ってきた兄貴もな」
「あ…ごめん……」
「いいって、気にすんな」
ちなみに兄貴達の死はガゼルさんからの手紙により判明した。
(旅に出る前に書いた置き手紙は、村の人達から失踪だと思われないようにするため)
「兄貴は子供を残しててな。 残された子供は、兄貴の旅仲間だったガゼルさんが育ててくれることになった」
「そうなんだ…」
「本当は俺が面倒見なくちゃいけないんだけどさ……ガゼルさんには頭が上がらないよ」
「………」
「んで両親と兄貴、義姉さんの墓参りがてら、甥の…ルークの世話してもらってるガゼルさんの様子も見ておきたくてさ。 ちゃんとお礼も言っておかないと…」
遠方に住んでいたせいで、家族の葬式にも出られなかった。
いくら疎遠だったとしても、せめて墓参りぐらいはしておかないとな。
「じゃぁ目的地は…そのヘルゼンって村でいいのかなぁ…?」
「あぁ。 まぁ海を越える前に、色々とここで旅用の道具も揃えるつもりだ」
「……そっか」
あれ…リムの奴、何か元気ないな?
あ、暗い話しちゃったからか?
「悪いな…しんみりさせちゃって」
「ううん…そうじゃなくて……」
え、そうじゃなくて?
「ゼロのお兄さんかぁ〜…じゅる…美味しそう……♪」
「そっちかよ!?」
心配した俺が馬鹿だった…。
「ゼロのお兄さん……まろやかなんだろうなぁ〜〜♪」
「まろやか…?」
「それで底無しの精力を持ってたんだろうなぁ〜〜♪」
「底無し…?」
「懐もさぞかし気持ち良かったんだろうなぁ〜〜♪」
「俺の兄貴がそこまで万能かどうか知らんけど…会えなくて残念だな」
「うん……だけどいいもん! アタシにはゼロがいるもん♪」
「そりゃどうも…」
全然ありがたくないけどな。
どっちみち俺はコイツの食事係なわけだし。
「ところでリム、さっきまでスルーしてたけど…お前二足歩行できるんだな」
「うん! すごいでしょ♪」
「まぁな。 これで服着れば完璧だよ」
「ふえ? どうして服なんて着なくちゃいけないの?」
「え? お前わかって立ってたんじゃないのかよ?」
「???」
俺はてっきり、町に入るから人の格好して変装しようとしてるのかと思った。
はぁ…まぁ好色者がそこまで考えてるはずないか。
「アタシはただ、立って歩いた方がゼロとお喋りしやすいと思ったから」
「あぁ、なるほどね」
コイツは俺の事しか頭にないな?
嬉しいような悲しいような……。
「予備の服があるからそれ着てくれ。 男物だけど、お前なら着れるよな?」
「ええ〜どうしても着ないとダメ〜〜?」
「ダ〜メ〜だ! そのまま町に入ったら大騒ぎになるぞ?」
「大騒ぎって…?」
「大騒ぎと聞いて、お前なら何を想像する?」
「う〜ん……」
そんなに深く考えることか?
「わかった! アタシのナイスな体に欲情した男達が一斉にオナニーを始めて……」
「うん、違うね」
「ガーン!?」
もう変態以外の何者でもないな、コイツ。
「大騒ぎって言ったら、『凶悪な魔物め! 町から出て行けーーー!!』的な運動が始まることを指す」
「ええ…ど、どうして!? ハーピーとかホルスタウロスなんて、普通に町中歩いてるじゃん!?」
「スライムの…いや、ダークスライムの印象はそこまで悪いってことだな」
「そんなの魔物差別だよ〜!? 贔屓だよ贔屓!!」
魔物差別ってなんだ……?
「日頃の行いが悪いんだな、きっと」
「うぅ…ぐす……」
やれやれ…。
「だからそういった迫害を受けないように、変装してくれって言ってんの」
「服を着さえすれば…アタシも町に入れる…?」
「あぁ、もちろん!」
「好き放題できる…?」
「内容にもよるけどな」
「じゃぁ着る〜♪」
切り替えが早い……。
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