『生態系調査 トカゲ編』

「い、急がないと…師匠に怒鳴られる!」

広い草原を走る一人の青年。

「やばい…完全に遅刻だ! こりゃぁ…怒鳴られるだけじゃ済まないぞ…!?」

どうやら寝坊してしまったらしい。

「今日は『免許皆伝認定試験』があるっていうのに……ああ何やってんだよ俺!」

大事な予定がある日に限って、何故か寝坊してしまうことって……良くありませんか?

「いや、今更後悔しても遅いな……今は一秒でも速く道場に着かないと!」

更に走るスピードを上げる青年。
決して諦めない心意気は実に立派。
こういう人って女性にモテるんですよね。
女を惹き付ける何かを持っているというか…。

「おい! そこの男、止まれ!!」
「………!?」

ほら、言ってるそばから何とやら。
一人の女性が走り行く青年に声を掛けました。

「な、なんでしょう…? 何かお困りなら…力を貸しますよ?」
「………」

息を切らしながら女に問う。
どんなに急いでいても、女性に対する礼儀を忘れない。
いやぁ…まさしく男の中の男ですね。

「ふむ…なかなか礼儀正しい奴だな。 どうやら私の目に狂いは無いようだ」
「は? はぁ……」

おや、出会って早々女性に気に入られたご様子。
さすが、モテる男は違いますね。

「力を貸してくれるのだな? ならば……私と一勝負してもらおう」
「え…ええ?」

気に入った、又は腕のたちそうな男に勝負を挑む。
まぁ当然の申し出ですね。
……え? 普通女性は勝負なんて挑まない?
ええ、もちろん仰る通りです。
普通の女性は勝負なんてしませんよ。
ただ……この女性の場合は違います。

「ん? なんだ、『リザードマン』である私では役不足か?」
「い、いや…そういうわけじゃ……」
「そうか。 ならば、早速始めるとしよう」

………
なんです?
誰も青年が『人間の女性にモテる』だなんて言ってませんよ?

「あ…そ、そのぉ……」
「まったく…今度はなんだ?」
「えっと…決して見下しているわけじゃないんですけど…女性に手をあげるのは、俺の武道精神に反するというか…師匠の教えでもありますし……」
「………」
「あっ…き、気を悪くされたのなら謝ります!!」
「…ふふっ……なるほど。 やはり、私は良い男を捕まえたようだ」
「え…?」
「なぁに、気にすることはない。 私を女と思わなければ良いのだ」
「いや、そういうわけには……」
「いざ…勝負!!」
「えええ!?」

おやおや、どうやら始まったようですね。
ある意味人生を賭けたデスマッチが。

「せいっ!」
「うわ!?」
「はあ!」
「うおっと!?」
「たあ!」
「おっとと……」

青年の方は回避優先ですね。

「貴様! 力を…貸すというのは…嘘…だったのか!?」
「男に…二言はないとっ…言いたい…ところですけどっ……先を…急いでるんで!!」
「私と…戦うまで…逃がしは…せん!!」

剣先を器用に避けながら器用に会話を展開しています。

「なぜ攻撃せんのだ!?」
「だ、だから…女性に手をあげるのは……」
「まだ言うか! 私は人間の女ではない、魔物なのだ! そのような気遣いは無用だ!!」
「そ、それでも俺には……」
「……ならば!」

ヒートアップしてきましたね。

「…ふんっ!」
「ぐはあ…!?」

剣撃に見せかけた回し蹴り。
さすがはトカゲさん、戦い方がお上手。

「いっ!? いてて……」
「さぁ…これで詰みだ。 この状況でも、まだ手をあげないなどと言えるか?」
「…っ……」

そういえば、青年は何を習っているのでしょうか?

「俺は…手をあげるわけには…いかない……!!」
「くっ…ならば死ぬがいい!!」

トカゲさんは大きく剣を振り上げ、そしてそれを一気に振り下ろしました。
どうなる青年!?

「はい!!!!!」

パシッ

「なっ……!?」

………
何が起きたか、わかりましたか?
そうです、『白刃取り』です。
同時に彼が『拳術』の使い手だということもわかりました。

「す、素手で剣を止める…だと?」
「攻撃してるわけじゃないから…ぎりぎりセーフかな……」

白刃取りができる人間は極少数。
この技が出せるということは、拳術を極めたと言ってもいいでしょう。

「………」
「あ、あの……」

剣をゆっくりと腰に戻し、青年を静かに見据えるトカゲさん。(品定め中)
彼女も一端の戦士。
青年の実力を計り違えることはないでしょう。

「負けはしなかったが、うむ……私の伴侶として不足はない」
「え、えぇ?」
「できる男を捕まえたと、里の皆に自慢できるな……♪」
「つ、捕まえた!? それに里って……」

合格したようですね。

「喜べ。 今から貴様は、私の『夫』だ」

夫判定試験に。

「あなたの……夫? 俺が……?」
「そうだ。 その証拠に私
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