「おー! 探偵事務所っぽいじゃんか!」
「っぽいじゃないっすー。れっきとした探偵事務所っすよー」
「でも、結局名前はあのまんまか」
「『狸の穴』のどこが悪いんすかー? 興味をそそられる絶妙なネーミングでーインパクトも申し分ないと思うんすけどー」
「インパクトあり過ぎるのもどうかと思うけど……」
「客寄せにはこれくらいがちょうどイイんすよー。ベルさんは商売のなんたるをわかってないっすー」
「あー、うん、ごめん。それについては返す言葉もない」
トウカがこの街の住人になってから早1週間。
ようやく探偵事務所の準備が整ったということで、開業前に下見をさせてもらうことに。
外観(主に事務所のネーミング)について一悶着あったが、本人が断固として意志を曲げないため諦めることにした。
自宅の隣に怪しい名前の事務所が建つことに若干の抵抗はあるが……。
「中もけっこうシャレてるっすよー。見てくっすかー?」
「悪いけど、夕方とかでいい? これから民警本部で集まりがあってさ。今後について色々話合わなくちゃいけないんだ」
「はわー、ベルさんはうちの『穴』に興味ないんすねー。残念っすー」
「セクハラはんたーい」
「うちがセクハラするのはベルさんだけっすよー」
「タチが悪い!」
探偵事務所『狸の穴』。
この街になくてはならない、立派な事務所になってくれることを祈る。
ただ…名前がなぁ……はぁ〜……。
民間警察中央区本部にて。
ベルメリオ「前回の襲撃もそうだけど、西区正門の守りをもっと固めるべきだと思う。襲撃のほとんどは精霊の森が起点になることが多いし」
男戦士「大将、なんなら西門を完全に封鎖しちまうってのはどうだ? そうすりゃ他の正門を守る人数も増やせる。一石二鳥だと思うんだが」
女白魔道士「名案ですぅ! 西門から草原に出るとぉ魔物に遭遇する確率が高いですからねぇ! 西門の使用頻度も極端に低いというデータがありますぅ!」
女戦士「待ちな。じゃあ森で生計立ててる連中はどうなるんだい? 北と南、どっちから出ても数時間のロスになる。その分の稼ぎは泣き寝入りしろっていうのかい?」
女侍「うむ。西門の使用頻度が少ないとはいえ、樵や狩人の人数も決して少なくないでござる。彼らの負担を考えると、その提案には賛同しかねる」
男戦士「そうは言っても、なにも犠牲にせず問題を解決なんざ、虫が良過ぎるんじゃねーか?」
女踊り子「そうね〜。それに守りを厳重にするっていうことは〜、あたし達の負担も増えるってことよね〜」
男シーフ「あっしは働きに見合った報酬さえもらえれば、やぶさかじゃないでやんすがね。キヒヒッ」
ベルメリオ「う〜ん……」
意見は大きく分けて2つ。
・西門を完全に封鎖することで人員を確保。一部の職種に影響は出るが、街の安全が格段に上がる
・西門に守りを集中させることで守備力の強化を図る、ただし人員への負担が増える
どちらも一長一短。
ただ心情的には、
ベルメリオ「俺も西門の封鎖には賛成できない。だけど男戦士の言うことも間違ってない。でも……」
本部に集まる数十人の団員全員と視線を合わせる。
ベルメリオ「でもさ、それってフェアじゃないよな? 確かに西門を封鎖すれば街の守りを固められるし、そこで浮いた人員を他に分散させられる。俺達にとっては良いことづくめだ」
男戦士「だったら……」
ベルメリオ「『俺達にとっては』、ね。逆に樵や狩人のみんなは損しかしてない。本当にそれでいいのか?」
一同「「「「「………」」」」」
ベルメリオ「俺は嫌だ。他のみんなを犠牲にしてまで楽をしようとは思わない。民警ってさ、こういうところで頑張るもんなんじゃないかな」
一瞬の沈黙。
そして、
女黒魔道士「あ、あたしも、リーダーと同じ気持ち……」
女魔物使い「わたしもわたしもー!」
男賢者「答えるまでもありません。民間警察である、我々の志ですからね」
女戦士「『困った時はお互い様』か。ちょいと子供っぽいが、嫌いじゃないよ」
男シーフ「そうでやんすね! あっしはこの組織に所属しているおかげでモテモテでやんす! なにも文句はないでやんす!」
女シーフ「リーダー。男シーフの性根、叩き直してもいいですかー?」
ベルメリオ「いいよーb」
男シーフ「キヒッ?」
数人の団員に囲まれモミクチャにされる男シーフを尻目に、封鎖を提案した男戦士・女白魔道士・女踊り子の3人に目配せする。
すると、3人とも苦笑いしながらそれに応えてくれた。
良かった…どうやら本気ではなかったようだ。
ギャヒーー!? やめるでやんす! そ、そこはあっしの大切な……アッーーーーー!?
ベルメリオ「あー女戦士ー? そこは物を入れる穴じゃないから止めてあげてー」
良い仲間達に恵まれた。
心からそう思
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