7泊目 『先輩後輩』

「突然っすけどー、新人さんを紹介するっすーノ」

わーわー♪
キャーキャー♪
パチパチパチー♪

「皆さん初めましてぇ。『不思議の国』から派遣されましたぁ、『マーチヘア』の『フラン』と申しますぅ(ペコリ」

可愛い〜♪
モフモフ〜♪

「フランさんはー『不思議の国』の女王様の下で働くー超エリートキャリアウーマンっすーノ ただー接客業は初めてらしいっすのでー、誰かに指導をお願いしたいんすけどー……」

『私がやりまーすノ』
『私にやらせてくださいノ』
『勤務歴の長いこの私にお任せくださいノ』

「ほむー、立候補が多くて困っちゃうっすねー。それじゃーここは間を取ってー……」

ゴクリ……

「クロさんにお願いするっすーノ」
「俺かよ!?」












ロビーでの臨時集会後。
他の仲居(魔物)達がバタバタと散開していく中、ホノカと何やら話し込んでいる新入りマーチヘア。
俺はそんな狸と兎を遠目からじっと眺めている。

「はぁ……」
「なによ、溜め息なんかついちゃって」
「板長、いたんすか?」
「『いたんですか』、でしょ?」
「……いたんですか?」
「そりゃいるわよ。ホノカが全職員に召集かけたんだから」
「新人1人に大袈裟過ぎじゃ?」
「そういう方針なのよ。文句言わないの」
「へ〜い」
「………」
「は、はいっ」

方針、ねぇ。
確かに俺が入ったときもこうやって集まっていたような気がする。
良く覚えてないが。

「というか、新人の業務指導を俺が任されるなんて思いませんでしたよ。まだ勤務半年ですよ?」
「そう? あたしは問題ないと思うけど」
「……面白がってます?」
「ちょこっとね♪」
「………」

完全に他人事か……。

「ま、大丈夫よ。あんたは教わるより、教える方が上手いかもしれないしね」
「その根拠は?」
「根拠? ないわよそんなの」
「え」
「ゴチャゴチャうるさいわねぇ…あんたに仲居(&厨房業務)の何たるを叩きこんだあたしがそう言ってるんだから、あんたは素直に『はい』って頷けばいいの! わかった!?」
「……はい」
「ふん、よろしい」

板長は満足げに笑みを浮かべると、

「じゃ、あたしは厨房に戻るから。後輩……イジメんじゃないわよ?」

最後にドスを利かせて去って行った。
何なんだよ…こえーよ……。
こうしてプルプルと板長の余波?に身震いしていると、

「クロさーん、ちょっとこっち来るっすーノ」
「お、おー」

女将からの呼び出しだ。
さて、どんな新人が入ってきたのやら……。












「2人共揃ったっすねー。それじゃー改めて自己紹介するっすよー」
「クロードだ。よろしく」
「あ、え、えーとぉ……」

うさ耳女は恥ずかしそうにもじもじすると、

「さ、先程ご紹介にあずかりましたぁ、マーチヘアのフランと申しますぅ。宿泊施設での業務は初めてなのでぇ至らない点も多いとは思いますがぁ、ご指導ご鞭撻の程ぉ、どうかよろしくお願い致しますぅ」
「お、おう」

懇切丁寧な自己紹介にたじろぐ。
恥ずかしそうにしている割にはかなりしっかりしている。

「彼女がここへ来る生い立ちはーさっき話した通りっすー」
「『不思議の国』から派遣されたってやつか」
「はいぃ」
「で、その『不思議の国』とやらはどこにあるんだ? 気になって仕方ないんだが」
「えーとぉ……」
「クロさーん、今忙しい時間帯っすのでー、その手の話はまた今度にするっすよー」
「そ、そうだな」

じゃなんでこんな時間に召集かけたんだこいつは。

「あのぉ」
「うん?」

フランが俺の目の前まで詰め寄ってくる。
ち、近いな。

「『クロード先輩』、とお呼びしてもぉよろしいですかぁ?」
「ん? あ、あぁ、好きに呼んでくれ。あと俺の前でそんな堅苦しい言葉は使わなくていい」
「はいぃ、わかりましたぁ♪」
「っ……」

んー…なんか、今までにないタイプの相手だな。
なに考えてるのかサッパリわからん。

「先輩♪」
「お、おう?」
「わたしのことぉ、遠慮せずに『可愛がって』やってくださいねぇ♪」
「………」











第一印象。
物腰が柔らかく甘え上手。
しかし何か裏がありそうな、えも言えぬ怪しさがある。
ホノカの言った通り、見た目はキャリアウーマンそのものなのだが……果たして、これがこいつの真の姿なのだろうか。
疑問は尽きない−−−−−





「クロード先輩、かぁ」

ニンジンの先端をペロリとなめる。

「どんな『味』がするのかなぁ……うふふ♪」





〜旅館・施設紹介〜

『ストリップショー』

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