「買い出しにお付き合いいただき、ありがとうございます」
「おーう」
「団体様がご到着される前に、食材の補充をと思いまして」
「おーう」
「本来はマリア1人で出向く予定でしたが、可能ならばクロード様を同行させても良いと……」
「誰が?」
「リン様です」
「あ、そ……」
ホノカじゃねえのかっ!
あいつなら文句の1つでも言えたのに……。
「しかし意外です」
「ん、なにが?」
「クロード様が素直に同行してくれたことが、です」
「いや素直ではなかっただろ。面倒だって言ったらお前、俺の腕凄い力で握ってきただろ。ミシミシいってたぞ」
「クロード様」
「うん?」
「何を仰っているのか、マリアには理解しかねますが」
「おい!」
そんなどーでもいいやりとりをしながら、俺はリビングドールの少女マリアと卸問屋までの道のりをノコノコのんびりと歩く。
正直なところ、旅館の仕事よりもこちらの方がダントツで楽なため、端から同行するつもりではあった。
しかし素直に了承するのも癪だったので、建前として渋るような態度を見せたのだが……
「見ろ、この痣が証拠だ! 手の大きさがやけに小せえから尚薄気味悪いわ!」
「これは痛々しいですね。一体誰がこのような酷いことを?」
「………」
ダッチワイフにしてやろうかと本気で考えてしまった。
問屋にて。
「……はい、承りました。後程旅館の方へお届けに参りますね」
「よろしく頼む」
窓口の美人受付嬢イネス(キキーモラ)に食材の発注を依頼。
刺身として出す魚介系の生鮮食品は、客の口に入る直前まで鮮度を保つため、ギリギリまで配送を遅らせるよう指示する。
そして、それ以外の食材に関しては……
「残りはこっちで運ぶから、準備を頼む」
「ほ、本当によろしいのですか? こちらでお届けすることもできますが……」
「『女将の意向』だ。無駄な配送料をかけたくないんだと」
「はぁ、左様ですか」
心配そうな表情を見せるイネス。
彼女の気遣いは嬉しいが、下っ端が上に逆らうことはできない。
それにまぁ、適材適所というやつだ。
怪力の俺を有効活用して無駄な出費を抑える……確かに合理的ではある。
………。
正直に言おう。
こんなことでいちいち腹を立てていたら、とてもじゃないがあの旅館で働くことはできない。
慣れとは恐ろしいものだ。
「ま、いつものことだ。あんたが気にするようなことじゃない」
「……承知致しました。道中、くれぐれもお気をつけください」
「おう」
イネスは毎度このように心配をしてくれる。
旅館ではなかなか労わられることのない俺にとって、彼女は数少ない癒しポイントでもある。
はぁ…俺の周りにもう少しこういう良い女がいてくれれば……。
いや、『良い女』は仰山いるのだが…そう、『中身』が……ね。
帰路。
「重い……」
「マリアがお持ち致しましょうか? まだ幾分余裕がありますが」
「いい。お前に頼るくらいなら苦しみを選ぶ」
「そうですか。クロード様は『ドM』なのですね」
「うっせ!」
荷物の重さに顔を歪める俺とは対照的に、小さな身体のマリアは俺の倍はあるであろう荷物を両手にぶら下げ、『この程度で根を上げているのですか?』といわんばかりの表情でこちらを一瞥する。
ったく、ダッチワイフ幼女が調子乗りやがって……。
まぁいい。苦しいとは言っても、旅館の業務に比べれば遙かにマシだ。
ここはゆっくり時間稼ぎ…もとい、寄り道でもしていくか。
戻ったらまた過酷な業務に逆戻りなんだ。ちょっとくらいサボってもバチは当たらんだろ。
さて、となると問題は……
「なぁマリア」
「はい、なんでしょうか」
このダッチワイフを如何に説得するかだ。
ホノカの右腕とも呼べるこいつは、およそスタミナ切れというものを知らない。
なので、『働け』と命令されれば三日三晩…いや、その命が朽ち果てるまで働き続けることだろう。
まぁそもそも、人形のこいつに命という概念があるのかどうかは甚だ疑問ではあるが……。
ともかく、仕事馬鹿のこいつを言い包めることは簡単ではない。
しかも下手をしたらチクられる可能性もある。
「クロード様?」
「いやなに。お前、いつも頑張ってんなと思ってさ」
策はないが、とりあえず褒めてみることにした。
「あいつ(ホノカ)の無茶な要求にも顔色1つ変えずに応じるんだから、すげえよ」
「マリアは主から与えられた使命を日々こなしているだけなのですが」
「そこが凄いんだよ。少なくとも、俺には真似できねぇな」
「はぁ。マリアは、凄いのですか?」
「おう。胸張っても良いと思うぞ」
「………」
マリアはその場で足を止め俯いてしまった。
ま、まずったか?
「………」
「お、おい」
「……です」
「え?」
マリア
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