墓地で店長にプロポーズしてからの1週間は、長いようで、とても短く感じられた。
プロポーズ翌日。
僕は居間のテーブルに母とリンを座らせ、店長と結婚する旨を伝えた。
まだ一介の大学生であるため、結婚はしばらく先のことになるということも込みで。
「やっと決心したのね?」
「うん」
「で、ロザリーには話したの?」
「………」
「まぁそうなるわよねー。いいわ、ロザリーのところに行くときはあたしも同行してあげる。念のために…ね」
「う、うん、ありがとう」
リンの同行については深く追求しない方向でお願いします。
「zz……zz……」
「お母さーん、起きてるー? お兄ちゃんわりと大事な話してるわよー?」
「zz……zz……」
「……反応ないわね」
「徹夜明けだからね。ここに座ってくれただけでも良しとしようよ」
「長男が結婚するー!ってときにこの有様とはねぇ…お母さんホント大物よね」
リンはテーブルに突っ伏す母の頬をツンツンとつつく。
まぁ、本当はちゃんと聞いてほしかったけど…母さんはこういう人だし、仕方ないか。
「それで? いつ献血に(ロザリーに会いに)行くつもり?」
「明日、行こうと思ってる」
「あ、明日!? ず、随分と急ね?」
「長引かせてどうにかなる問題じゃないから。大学にも体調のことを考慮して休学届は出してきた。これで僕が病院送りになっても無断欠席にはならない」
「変なところで用意周到なんだから……」
初めから無事で済むとは思っていない。
2週間…いや良くて3週間の輸血生活を覚悟している。
「それに、さ」
「?」
僕は、愛しいあの人の顔を思い浮かべる。
「死ぬかもしれない。でも…僕はそれでも、あの人と一緒にいたいと心から思ってる。だから……」
「なんにも怖くないって? あ〜ヤダヤダ! お兄ちゃんくさすぎ!」
「そ、そうかな?」
「そうよ! まぁ、でも」
リンは頬杖をつきながら、
「それでこそ、あたしのお兄ちゃんって感じね♪」
妹がいてくれて良かった。
素直にそう思った。
プロポーズから2日目。
オルレンシア邸にて。
「………」
「………」
『店長と結婚します』とロザリーさんに打ち明けてから、早6時間。
彼女は目を閉じ腕組みした状態から一言も言葉を発せず微動だにしない。
その間僕は動くに動けず、いつ襲われてもおかしくない状況に神経をすり減らしながら、恐らく人生で最も辛い時間を過ごしていた。
「………」
「………」
脂汗が止まらず、息づかいも荒い。
辛い…怖い……でも、僕は黙って待つことしかできない。
なぜなら、僕のロザリーさんに対する行為は一種の『裏切り』。
10年以上も傍にいてくれた女性を切り捨ててしまったことと同義なのだから。
「………」
「………」
僕の背後には付き添いのリンと、オルレンシア邸でメイドとして働くサハギンの少女シィが控えている。
しかし長時間の沈黙に耐えきれなかったのか、後ろからは2人の寝息が聞こえてくる。
僕が『殺害』される可能性を考慮してついてきてくれたリンだが、もはやそのカードもあってないようなもの。
「………」
「………」
「……ふぅ」
ビクッ!
ロザリーさんが溜め息をついた。
そして僕は6時間ぶりの彼女の動きに思わず神経反射。
「……ファルシロン?」
「は、はい!?」
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
あまりの恐怖に背筋がピンと伸びる。
「あなたはわたくしではなく、あの性悪狸と添い遂げる……そう仰いましたわね?」
「……はい」
「嘘偽りは、ありませんわね?」
「………」
僕はロザリーさんの視(死)線を真っ向から受け止めながら、
「はい、嘘偽りはありません。僕は…………店長を愛しています」
彼女の質問に、確かな決意を持って答えた。
「そう、ですの……」
ロザリーさんは足元に視線を向けると、再び小さな溜め息を漏らす。
そして……
「シィ! 長期滞在の準備をなさい!!」
「「「(゚Д゚)!?」」」
突然立ち上がったかと思いきや、ドレスを勢い良く翻し客間を後にする。
どうでも良いが、僕を含め後ろで眠っていた2人もロザリーさんの声に驚き飛び起きた。
「ロ、ロザリーさん! 長期滞在って、どういうことですか!?」
彼女は僕の呼びかけに歩みを止める。
「決まっていますわ。これから『傷心旅行』に赴くつもりですの。あなたにフラれたおかげで、わたくしの乙女心はもうズタズタですのよ?」
「は、はぁ」
乙女心がズタズタ、といった様子でもないような気はするが……。
「それに…何となく、気付いていましたの」
「え?」
ロザリーさんは僕の方へ振り返ると、両手を腰に当てながら目を細める。
「ホテルを訪
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