「お兄ちゃん朝よ! 起きなさい!」
「ん…ん〜……あと20秒だけ……」
「思わず待ってあげたくなるような時間だけどダメよ! 早く起きなさい!」
「う〜ん…わかったよ……ふぁ〜〜〜」
4日目の朝。
妹のリンに体を揺すられ起床を促される。
「ふぅ……おはよう、リン。今日は無事起きられたんだね」
「あたしが本気を出せばこんなもんよ!」
「そっかそっか。あ、シィもいたんだ。おはよう」
「ん(兄者、娘の言うとることは嘘やで。昨晩頼まれて今朝はわいが起こしてやったんや)」
「あ、そうなんだ」
「? お兄ちゃん、どうしたの?」
「え? あ、あぁいや! 何でもないよ」
「ふ〜ん?」
そうだ、リンにはシィの『第2の声』が聞こえないんだった。
受け応えするときは気をつけないと怪しまれちゃうな。
「ところで、こんな朝早くに一体どうしたの? 何かあった?」
「別にないわよ? ただ、昨日お兄ちゃんに起こしてもらったから、そのお返しをしたかっただけ」
「あぁ、なるほど」
「妹に起こされるなんて、お兄ちゃん冥利に尽きるでしょ? あたしに感謝してもいいのよ!」
「む(だから娘起こしたのはわいや言うとるやろが!)」
「あ、あはは。そろそろ起きなきゃって思ってたんだ。ありがとね、リン。シィもありがと」
「ふふん♪」
「ん(お、おう。兄者が喜んでくれたんなら悪い気はせえへんな……///)」
得意気に胸を張るリンと、ほんのり顔を赤らめるサハギンの少女シィ。
兄想いの妹が2人もいるなんて…お兄ちゃん感無量だよ。
「そうだ、せっかく早く起きたんだし、たまには手の込んだ朝食でも作ろうかな」
「それなら心配ないわよ」
「え?」
「シィと一緒に作ったの。もうテーブルに並んでるわ」
「ほ、ほんとに?」
「ん(ちなみにほとんどわいのお手製やけどな)」
「………」
まさに至れり尽くせり。
普段家事に追われる僕としては、今日みたいな日が毎日続けば良いのになぁと冗談抜きで思えてしまう。
いやまぁ、それはそれでダメ人間になってしまう気もするけど。
「どう? 感動して声も出ない?」
「う、うん」
そうだ、ダメ元でリンに頼んでみよう。
『気が向いたときにでも早起きして朝食を作ってくれないかな?』、と。
旅行中で機嫌の良いリンのことだ、もしかしたら…ということも考えられる。
よし! そうと決まれば……
「リン、あのさ……」
「今日だけの特別サービスよ? 当分は早起きなんてしないから」
「デスヨネー」
……世の中世知辛い。
「シロ君、一勝負しないか?」
朝食後。
別荘備え付けのラウンジで1人くつろいでいると、リリィさんからチェスのお誘いを受けた。
あ、シロ君と呼ばれドギマギしてしまったのは内緒。
「ときにシロ君。折り入って相談があるのだが」
「あ、はい。なんでしょうか?」
圧倒的に劣勢な状況をどう覆そうかと頭を悩ませる僕に、リリィさんはチェスボードから目を離さずに語りかけてくる。
「まぁ相談というよりは、仕事の依頼と言った方が正しいかな」
「仕事、ですか?」
すると彼女は何やら手帳のようなものを取り出し、おもむろにページをめくっていく。
そしてあるページで手を止めると、
「昨日、このビーチをロザリンティア女史に譲渡した件は覚えているね?」
「はい、それはもちろん」
「実はね……このビーチには、ちょっとした問題があるんだ」
「問題?」
リリィさんは申し訳なさそうに目を伏せると、開いたままの手帳を僕に差し出してきた。
「これは?」
「中身を読んでくれたまえ」
「あ、はい。えっと……」
『報告書 〜巨大生物の住処を発見〜』
先日リリィ様にご購入された当ビーチですが、アフターサービスとして安全確保のための再調査を実施させていただきました。
しかし誠に遺憾ながら、岩場の奥の洞窟に巨大生物の影が確認されました。
当初は調査隊の見間違いではと我々も半信半疑でしたが、複数の調査員が目撃
したとの報告を受け信じざるを得ない状況となりました。
本来なら我々が対処すべき問題ではありますが、契約内容には『アフターサービスとして再調査を実施』のみとしか記載されておらず、討伐は管轄外として契約には含まれておりません。
そのため今回の件は『自己責任』ということで決着とさせていただきます。
こちらの不徳の致すところではありますが、ご理解の程よろしくお願い致します。
〜バフォメット商会〜
「………」
「酷い話だろう? まぁ、まんまと掴まされた私の責任でもあるのだが」
「あぁいや、別にそうは思いませんけど……」
このビーチに巨大生物が?
知らなかったとはいえ、僕達とん
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