「………」
目を覚ますと、遠くの方から波の音が聞こえてくる。
そっか、あたし今お兄ちゃん達と海水浴にきてるんだった。
「ん…ん〜〜〜」
上半身を起こし大きく伸びをする。
するとポキポキと小気味良い音が体中から鳴り響く。
「……ふぅ。良く寝た」
昨日の疲れも感じず、体の調子はいつも以上に良好。
これなら今日も目一杯海で泳ぎまわることができそうだ。
う〜ん、それとも兄にゴムボートでも引かせて海上観光でもしようかしら?
コンコンッ
今日の予定を思案していると、自室の扉を控えめに叩かれる。
――この叩き方は間違いなくお兄ちゃんね。起こしにきたのかしら?
外はぼんやりと明るいが、まだお日様は昇っておらず早朝といえる時間だ。
兄がこんな朝早く起こしにくるなんて今までに1度もないが、旅行中なので今日は特別なのかもしれない。
ガチャ……
返事をしないまま様子を見ていると自室の扉が静かに開き、予想通り兄が姿を見せる。
いつもは起こされてばかりだけど、あたしが本気を出せば早起きくらい造作もない。
こんな早朝にあたしが目を覚ましていることを知ったら、きっと兄は『リン、凄いじゃないか! やればできるんだね! さすがは僕の自慢の妹だ!』と称賛するに違いない。
ふふっ……さあ、早くあたしを褒め称えなさい! お兄ちゃん!
「……あ、起きてたんだ? 珍しいね」
「えぇ、たまにはね。でもおかげでぐっすり眠れたわ」
「そっか。それは良かった」
あたしは至ってクールに対応する。
本当は『早起きしたわよ! 偉いでしょ!?』と言いたいところだが、たかだか早起きごときで威張るのも子供っぽいと思い、ここは兄の出方を見ることに。
まぁ、出来れば褒めてほしいけど……。
「それにしても早起きだね? やればできるじゃないか。もう僕が起こしにくる必要もないかな?」
「ふ、ふふん! あたしがその気になれば、これくらいどうってことないわよ! でもあたしが頑張るとお兄ちゃんの朝の仕事がなくなっちゃうから、今後もあたしのことを起こす大事な役目を任せてあげる♪」
「あはは。わかってますよ、眠り姫様」
まるで恋人同士のようなやり取りだが、これはれっきとした兄妹のスキンシップ。
なにも特別なことはない。
「それよりもほら、まだちゃんと挨拶してないわよ?」
「あ、そうだったね」
あたし達は何気ない家族間のコミュニケーションを大切にする。
細かいと思われても仕方ないが、これは我が家で小説の執筆に勤しむ母の教えである。
「お兄ちゃん、おはよ♪」
「うん。おはよう、リン」
最高の朝を迎えることができた、あたしはそう信じて疑わなかった。
でも、それなのに……
「気持ちの良い、『3日目の朝』だよ」
「うん! …………は?」
3日目?
あれ? 確か今日は2日目だったはずじゃ……
「リンは昨日ずーっと眠ってたんだよ? 何度も起こしに行こうとしたんだけど、近づいたら自動防衛反応(オートディフェンシブスキル)で攻撃されて……」
「う、うそ、よね……?」
「………」
兄は黙って首を左右に振る。
「……あ、あたしの…2日目、が……orz」
後悔先に立たず。
あたしはその言葉の意味を、身を持って痛感させられた。
3日目の朝。
彩り豊かな朝食が並ぶ木製のテーブルには僕、リン、店長、ロザリーさんの4人が向かい合うように座っている。
しかし、昨日知り合ったサハギンの少女シィの姿が見当たらない。
実は早朝に別荘内で顔を合わせたので朝食の席に誘ったのだが、『お仕事中』ということで断られてしまった。
というのも、彼女の正体がこのビーチの所有者である豪商リリィさんに雇われた管理人であるが故のこと。
それもそのはず、これだけ広い敷地なのだ。管理人である彼女に暇ができることなんてそうはないだろう。
僕も手伝おうか?と協力を申し出たが、これまたヤンワリと断られてしまった。
素人の僕にできることなんて数える程しかないとのこと。ごもっともである。
そんなわけで、リンに彼女を紹介するのはもうしばらく先のこととなった。
と、今しがた話に出てきたリンなのだが……
「(゚д゚)ポケ−−−」
ご覧の有り様である。
「え、えっと…リン、大丈夫?」
「(´゚д゚)ナニガ?」
「いや、そのぉ……元気出しなって」
「(´゚д゚)アタシハゲンキヨ?」
「う〜ん、とてもそんな風には見えないけど……」
「(´゚д゚)マルイチニチネテスゴシタコトナンテアタシゼンゼンキニシテナイカラ」
「いや、うん。リンがそう言うなら別にいいんだけど…せめてそのカタコトをどうにかしてくれないかな? 聞き取りづらいし、読む人も大変だと思うんだ」
「(´゚д゚)わかった」
「うん、ありがとう。その……元気出して。ね
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