〜簡単なあらすじ〜
避暑のために訪れた貸し切りビーチは、文句のつけようがない程に素晴らしい場所でした。
1週間しかない滞在期間で最高の思い出を作ろう……僕達はそう心に誓った。
海水浴、2日目の午後。
天気は相変わらずの快晴。
今日も太陽が容赦なく僕達を照りつける。
そんな中、僕と店長は砂浜付近の浅瀬をプカプカと漂っていた。
「ほむー、本当に良いところっすねー」
「そうですね。こんな良い場所を僕達だけで独占していると思うと、何だか申し訳ない気分になっちゃいますよ」
「気にすることないっすよー。遊べるときに遊ぶ、これ商人の鉄則っす」
「えっと、商人関係ないんじゃ?」
2人で手を繋ぎながら仰向けになり真っ青な空を見上げる。
風は穏やかで波もほとんどなく、知らぬ間にどこかに流される心配もない。
だから別に手を繋ぐ必要はないのだが……まぁ、それは建前ということで。
「はー……幸せっす」
「はい、僕もです」
ロザリーさんは一泳ぎした後、今は浜辺で日光浴に興じている。
そして妹のリンはいまだにベッドの上。
いい加減そろそろ起き上がってもいい頃だと思うのだが……心配だから後で様子を見に行こう。
そういうわけで、今はなんだかんだで2人きり。
ちょっとしたデートのような時間を過ごしている。
「あーそういえばー、さっき伝書鳩が来たっすよー」
「え? 今時伝書鳩なんて使われているんですか?」
「商人の間ではー割と普通に扱われているっすよー。急な情報伝達には欠かせないんすよー。一般的にはー完全に廃れてるっすけどねー」
「はぁ、なるほど……確かにそっちの方が昼夜関係なく手紙のやりとりができますね」
「そゆことっすー」
使えるものは何でも使う、実に商人らしい。
「でも、正確に届けることってできるものなんですか? 結果的に頼るのは鳩なわけですし」
「その辺は問題ないっすよー。というよりー厳密には鳩じゃないんすよー」
「え?」
「最近は業界用語でー『ハーピー種』を鳩と呼ぶのが流行っているっすー」
「そ、そうなんですか? えっと、ということは……」
「今風に言うならー『伝書ハーピー』っすねー。『ハーピーお空のメール便』が安くて大変便利っすよー」
「………」
最近世間では魔物の職場進出が取り沙汰されているが、まさかここまでとは……。
「配達を頼む種族によってー若干料金が変わるんすよー」
「はぁ、そうなんですか?」
「っす。そっすねー…せっかく話題に上がったことっすからー、軽く説明してあげるっすー」
そう言うと店長は体を起こし、まるで泳ぎの補佐をするかのように僕を浜辺へと引っ張っていく。
そして波打ち際まで来ると、彼女は海水で湿った砂浜に指で何やら書き始める。
う〜ん、一体どんなシステムになっているのだろうか。
「ほむー、確かパンフレットにはー……」
〜ハーピーお空のメール便・料金案内〜
・ハーピー(お届け日時に指定がない場合はこちら。料金は80エル)
・ブラックハーピー(できるだけ早い配達をご希望されるお客様はこちら。料金は180エル)
・カラステング(お届け日時を受付日より3日以降に指定される場合はこちら。料金は120エル)
・セイレーン(ソングレターをご希望されるお客様はこちら。料金は出張価格込みで1680エル)
以上4種の中から条件に合った配送手段をお選びください。
尚送り主及び送り先のお客様は、配達員へのチップの寄贈はお控えください。
男性の場合身の安全を保証しかねます。
………。
「思ってた以上にリアルだった!?」
しかもその利便性とコストパフォーマンスの高さが半端ではない。
「最近はー売り上げも右肩上がりみたいっすよー」
「僕、何故だか少し感動しちゃいました……」
「ははー、なんとなくわかるっすよー」
ちなみにセイレーンの料金が割高なのは、現役アイドルを使っているからという点にも感動した。
逞しく生きる彼女達……涙が出そうになった。
「商人のうちらはーだいたいブラックハーピーの速達を使うっすねー。少し高めっすけどー」
「それじゃぁ、さっき来た人も?」
「そっす」
「は〜……」
思わず感嘆の溜め息をつく。
今度お婆ちゃん(バフォメット)宛てに手紙を送るときは、僕も彼女達を頼ることにしよう。
そして心の底から言いたい……『お疲れ様です』と。
「ところで店長、届いた手紙はもう読んだんですか?」
「あー伝え忘れてたっすねー。リリィさんからでー明日の朝には到着するとのことっすー」
「あ、そうだったんですか」
この店長が認める程の人物なのだ、きっと色々な意味で大物に違いない。
う〜ん……いざ会うとなると、少し緊張してきてしまう。
「別に気負うことないっすよー? かしこまり過ぎるとー逆
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