29品目 『絶対領域』

「ん……」

早朝。
イチカが目を覚ました場所は寝室。
見慣れない光景に一瞬戸惑うものの、すぐさま自分が旅行中の身であることを思い出す。

「………」

むくりと体を起こすと、枕元に置かれた愛用の『下着』にゆっくりと手を伸ばす。

「(σω-)」

眠い目を擦りながら気だるそうに身支度をする。
昨日は少々ハメまく……ハメを外し過ぎてしまった。
いや、真の原因はあの吸血お嬢様が因縁をつけてきたせいだ。
アレさえなければ、今頃はファルシロンと同じベッドで子作りに励んでいたことだろう。
本来なら皆が寝静まった後、『全裸』でファルシロンの部屋に突入する予定だったが、体が疲弊しきっていたため、自室で服を脱いで待機している内に眠りに落ちてしまったのだ。

「………」

狸印のロゴが入ったノースリーブを着ると、イチカは音もなく部屋を後にする。
寝込みを襲うという計画が潰えた今、彼女の目的はただ1つ。
そう、愛しい彼のために『モーニングコール』のサービスを提供するのだ。

「すっすっすー♪」

イチカの足取りは軽い。
寝込みを襲えなかったとはいえ、朝一番に彼の可愛い寝顔を見ることができる。
もう想像しただけで濡れ……胸が高鳴るというものだ。

「シロさんの部屋はー、ここの角っすよねー」

ちなみに下半身は下着姿のまま。
これはドジっ娘というわけではなく、彼の慌てふためく様を見たいがための策略。
寝顔の観賞と同時にイタズラもしてしまおうという、まさに2段構えの完璧な計画なのだ。
期待に胸を膨らませながら、イチカは長い廊下の一角を曲がる。
すると……

「「……あ」」

廊下の奥に、肌が透けて見える程生地の薄いロングドレスを着たお嬢様の姿が。

「………」

一瞬動揺したものの、すぐさま歩きだす。
そんなイチカを見たロザリンティアも同様に歩きだす。

「「………」」

両者無言のまま少しずつ距離を詰めていく。
まさか……まさかとは思うが、あの吸血女も自分と同じ目的が?
いやそもそも、あの高飛車女が律儀にも朝早く彼を起こしに行くだろうか?
……偶然か?
………。
待て、ならばあの男を誘う気満々の淫らな格好はどう説明する?
2つの余分な脂肪をバインバインと揺らしながら品性良く歩くその姿は、世界中の男を悩殺するには十分過ぎる。
これに見えそうで見えないスケスケドレスとくれば……チッ。

「「………」」

そしてイチカの予想通り、ロザリンティアはファルシロンの眠る部屋の前で足を止めた。
『お前何しに来たの?』と言わんばかりに睨み合う2人。
そして、

「……こんなところで会うなんて、奇遇ですわね」
「ほんとっすねー。お嬢様はーこれからどちらへー? お小水ならアッチっすよー?」
「いいえ、今は催していませんの」
「そっすかー」
「えぇ」
「………」
「………」

………。

「コホン……実はわたくし、これからファルシロンを起こしにいくつもりでしたの。近い未来夫となる殿方にできる、わたくしなりのせめてもの礼儀ですわ」
「ほほー、それは感心っすねー…………で? 本当の目的はなんすかー?」
「で、ですからファルシロンを起こしに……」
「起こすだけっすかー? うちならーもっと気持ちイイ方法で目覚めてもらうっすけどねー」
「ふん、狸の気持ちイイなど底が知れていますわね。わたくしなら、もっと盛大に『ヌいて』差し上げることができますわ!」
「………」

お嬢様のギリギリ発言に戸惑うイチカ。
しかし、

「いやいやー、そんな『汚れ仕事』はお嬢様に似つかわしくないっすよー。ここはうちに任せるっすー」
「そういうわけにはまいりませんわ。『朝の処理』も、貴族であるこのわたくしが成すべき義務の1つですの」
「無理はいけないっすよー。お嬢様に『喉奥奉仕』はできないっすよー」
「『上目遣いバキューム』という秘伝の技がありますの。心配はご無用ですわ」
「………」
「………」

………。

「あー『搾りたての生臭いミルク』が飲みたいっすねー」
「そうですわね。わたくしも『白オタマジャクシの踊り食い』がしたいですわ」
「………」
「………」

………。

「「っ!!!」」

両者ともほぼ同時に、半ばタックルするかのようにファルシロンの部屋の扉をこじ開ける。
そして我先にとベッドに向かって飛び込む。

「くっ! ファルシロン(の息子)はわたくしのモノですわよ!?」
「先に手(口)に入れた方が勝ちっすよー」

広いベッドの上で揉みくちゃになる2人。

「どこに……どこにいますのファルシロン(の息子)!?」
「シロさんのナニはどこに……はわー!? 尻尾を引っ張るのは反則っすーーー」
「ま、間違えましたわ……って! どさくさに紛れてわたくしのドレスを破くのは止めてくださいます!?」

ギシギシ バ
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