「うわっ……とと!?」
「大丈夫っすかー? 足場が悪いっすからー気をつけるっすよー」
5日目の早朝。
昨日依頼された『巨大生物討伐』のため、店長・リリィさん・そして僕を含む3人は、依頼対象が潜んでいると思しき洞窟を目指すべく、海岸の切れ目にある岩場に足を踏み入れ悪戦苦闘していた。
まだ日も昇りきっていないため辺りは仄暗く、ただでさえ不安定な足元がより一層僕達の進行を妨げる。
「すまない、奴の住処へ行くにはここを通らなければならないんだ。他に適切なルートがなくてね」
「き、気にしないでください。これくらい…戦闘前の準備運動だと思えば…なんてことないですよ」
「ふふ、そうか。そう言ってくれると助かるよ」
足を滑らせないよう細心の注意を払う僕とは対照的に、リリィさんはこの荒れ地を散歩でもするかのように苦も無く進んでいく。
一瞬何故?と疑問したが、良く良く考えてみれば単純なことだった。
「ほむー。1人だけ楽そうっすねー。リリィさんズルいっすよー」
「私は精霊だからな。気流を操り自らを浮遊させるなど造作もないことだ」
「その調子でーうちらも浮かせられないっすかー?」
「無茶を言うな。人1人持ち上げるのに、一体どれほどの力が必要だと思っているんだ? 私ができるのは、あくまで自分自身。風の精霊シルフなら可能かもしれんが、お前達を浮かせるのは私の専門外だ」
「お金を払えばー何とかなるっすかー?」
「魅力的な話だが、いくら金を積まれても不可能なものは不可能だ。我慢してくれ」
「っすー……」
ぶーたれる店長だが、実は彼女も彼女で幾分楽をしている。
というのも、店長は僕の後ろをピタリと追随してくるのだ。
僕の通った場所が安全であると判断した結果だろう。
信頼してくれるのは嬉しいんだけど、この中で苦労してるの僕だけじゃないかな……?
「ボートで回り込んだりは……できないですよね」
「あぁ、洞窟近海は潮の流れが速いらしくてね。海上からの接近は難しい」
「結局ーここを通る他ないってことっすねー」
「そういうことだ」
まぁここで文句を言っても仕方ない。
今は巨大生物の討伐だけを考えよう。
はてさて、鬼が出るか蛇が出るか……。
「……ふむ。この洞窟で間違いないようだ」
「はぁ…やっと着きましたね」
「なに言ってるんすかー? 本番はこれからっすよー」
「そ、そうですよね」
岩場を進むこと1時間。
やっとの思いで洞窟に到着した僕達は、入口の手前で依頼の最終確認を行う。
「洞窟内部には依頼対象以外にも、凶暴化した魔物が無数に存在すると聞いている。だが今回の目的は、あくまで『巨大生物の討伐』。無駄な戦闘は極力避けていこう」
「わかりました」
「逃げるが勝ちっすねー」
洞窟の深さも詳しく判明していないため、体力の温存が鍵であるとリリィさんは指摘する。
彼女の堅実な探索方針に僕と店長も素直に従う。
「それとイチカ」
「っすー?」
「お前には達成報酬もそうだが、高い前金を支払っている。しっかりと働いてもらうぞ?」
僕は2人の契約内容をあえて聞かない。
「心配しなくてもー報酬分の活躍はきっちりさせてもらうっすよー。あー戦闘中にお金を支払ってくれればーその金額分もっと活躍するっすよーノ」
「まったく…お前は遠慮という言葉を知らないのか? 少しはシロ君を見習いたまえ」
「シロさんは無欲っすからねー。だからうちがーシロさんの分までガメツクいくっすー」
「なんだそのテキトーな屁理屈は……」
店長のマイペースっぷりにやれやれと肩をすくませるリリィさん。
まぁ、こういう人ですからね。僕はもう慣れました。
「さて、では探索を始めよう。準備はいいかな?」
「はい!」「っすーノ」
「よし。ならば、行動開始だ」
Mission start!
「す、すごいですね。海辺にこんな場所があったなんて」
「どことなく鍾乳洞に似てるっすねー。魔物のせいでーだいぶ荒れてるみたいっすけどー。ちょっと辺りを調べてくるっすーノ」
「あ、気をつけてくださいね!」
「っすーノ」と臆する様子もなくズンズンと奥へ進んでいく店長。
僕の周りには色々な意味で逞しい女性が多い気がする。
「私達も少しずつ進もうか」
「はい」
洞窟内部は意外にも広く、さきほど通ってきた岩場ほど足場も悪くない。
足元が若干滑りやすいものの、注意して歩けばなんてことはない。
もっと入り組んだ構造をしていると思ったが、これは良い意味で予想が外れた。
巨大生物の正体が判明していないため不安は尽きないが、探索自体は楽に進めることができそうだ。
「こんな事態じゃなければ、ゆっくり見物でもしたいところですね」
「悪くない提案だが、少し油断が過ぎているのではないかな?」
「す
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