「ロザリー! またイカサマしたわね!?」
「リン、負け惜しみはみっともないですわよ?」
「だ、だって! 8回連続でロイヤルストレートフラッシュなんてあり得ないでしょ!?」
「いいえ、そんなことはありませんわ。それは単に、わたくしの持って生まれた強運がそうさせているに過ぎませんわ。さぁ、早く1枚お脱ぎなさい」
「うぅ…理不尽過ぎるわよ……」
「何を言いますの? サンダル1足を2敗分と数えているだけ、ありがたいと思いなさい」
リンは渋々とノースリーブの裾に指をかけ、万歳するように服を脱ぎ始める。
「ちょ、ちょっと待った! それはさすがに目のやり場に……」
「ちゃんと下に水着きてるわよ!」
「あ、そっか。なら安心だ」
「はぁ…半裸のお兄ちゃんに『安心だ』なんて言われたくないんだけど……」
僕達は今、列車の中にいる。
目的地であるビーチまでは半日かかるそうなので、それまでの間トランプでもして時間を潰そうという流れになった。
しかしただ遊ぶだけでは面白くないということで、僕・リン・店長・ロザリーさんの4人の内、ポーカーでビリになった者(最も役が弱かった者)が『1枚ずつ脱いでいく』というルールが課せられた。
最初は人の目もあるのでどうかと思ったが、どうやらこの列車は貸し切り&目的地までノンストップということらしいので、その辺りの心配は無用だった。
ちなみに現在の状況はというと……
ファ→ハーフパンツのみ(計2回ビリ)
リン→ローライズジーンズ+上半身水着(計3回ビリ)
イチ→ほぼ無傷(計2回ビリ)
ロザ→無傷
夏場で超軽装のため、数敗しただけでも危機的状況に陥ってしまう。
というか、下に水着を着ていない僕はもう既に後がない。
「ほら、脱いだわよ! 次こそロザリーに一泡吹かせてやるんだから!」
「フフ、それは楽しみですわ♪」
ビリだったリンはカードを集め丹念に切り始める。
「いやーほんとお嬢様は強いっすねー。まったく勝てる気がしないっすよー」
「煽てたって何も出ませんわよ? それよりあなた……既に2度ほど負けていますわよね?」
「っすー、お恥ずかしながらー」
照れくさそうに頭をかく店長だが、どうにも違和感がある。
「見た目がまったく変わっていないのは、一体どういうことですの?」
「確か店長、頭の葉っぱを1枚とカウントしてましたよね?」
「その通りっすけどー、別にールール違反ではないっすよねー?」
「いや、まぁそうなんですけど……」
そう、そうなのだ。
店長の横には頭から外した葉っぱが2枚置かれている。
これは装飾品の1つということなので別に問題はない。
しかしそれにも関わらず、なぜか店長の頭の上には今だに葉っぱが健在している。
おかしい……新しく乗せ直したような仕草は見せなかったはずだけど……。
元々店長の服装はリンと同じくノースリーブにショートデニムと軽装。
下に水着を着用していない分、店長の方がやや不利であるといえる。
「配ったわよ」
5枚ずつ配られたカードを4人同時に拾いあげる。
まずは手札の確認だ。
(ふむふむ、7のワンペアか。それにクローバーが3つ…フラッシュも狙えるけど後がないし、ここは堅実にいこう)
僕は手札から7以外の3枚を切り、山札から切った分の3枚を引く。
すると……
(……! フォーカード!)
幸運にも、山札から7を2枚引き当てた。
(最悪ワンペア、良くてスリーカードを想定してたけど…これは期待以上だ!)
しかし、激運のロザリーさんがいる限り1位は狙い難い。
でも今は負けないことが最優先。
そう、要はビリにならなければ良いのだ。
フォーカード程の役ならまず負けることはないだろう。
(さて、他の人は……)
周りを見渡すと、渋い顔をしたリンが見える他、まったく表情の読めない店長。
そして鬼門であるロザリーさんは……
「フン、今回はツイていませんわね」
5枚全てのカードを切った。
「!」
それを見たリンは、手札から3枚のカードを切り、山札から3枚を引く。
なるほど…リンも恐らくワンペアの状態で判断に困っていたのだろう。
そこにロザリーさんが全切りとくれば、確実に勝利を掴みにくるのも頷ける。
仮にここでリンの手札がワンペアより進展しなかったとしても、全切りしたロザリーさんの手札は高が知れている。
間違ってもロイヤルストレートフラッシュなんて悪魔じみた役はこないだろう。
「………」
しかし、その中でただ1人動きを見せない者が。
(あれ? 店長は捨てないのかな?)
ジッと自分の手札を見つめる店長。
そして、
「うちはーホールドっす」
結局、店長は配られたままの手札で勝負することを選んだ。
これで舞台は整った。
「それじゃぁ、準備はいいですか?」
全員が黙って頷く。
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