7月の下旬。
リンの通う高等部では既に夏季休暇が始まっており、僕もつい先日定期考査を終えたばかりだ。
連日の気苦労あってか、試験後の僕はまるで魂の抜けた人形のようであったとリンは語る。
試験終了直後は特に酷かったようで、ほとんど老人介護状態だったらしい。
現在は精気を取り戻しつつあるが、恐らく8月に入るまではダラダラとした日々を送ることになるだろう。
まぁ、大体毎年こんな感じである。
「ふぃ〜(*´ω`)」
居間にある大きなソファーに身を委ね、どことなくオッサン臭い溜め息を漏らす。
そんな僕を妹はニヤニヤしながら、そして様々な角度から観察してくる。
「ダラけたお兄ちゃんはいつ見ても新鮮ね。期間限定だし、しっかり見納めしとかないと」
「ほむ〜(*´ω`)」
キャッキャッ(*´∀`)σ)´ω`)ほむ〜
妹に頬を突かれても微動だにしない僕。
今は滅多な事がない限りここから動くことはないだろう。
というか、できればあまり動きたくないです。
「一緒にお風呂入れるのは嬉しいけど、お兄ちゃんボ〜っとしてるだけだから面白くないのよねぇ……」
「(*´ω`)ふも〜」
「ねぇ、妹が裸で介護してあげてるんだから、少しは感謝(興奮)したら?」
「(*´ω`)もふ?」
「はぁ……ダメか」
ウリウリ(*´∀`)σ)´ω`)ほむ〜
なにやら妹が因縁をつけてくるようだが、今の僕はそこらのマグロも目じゃないくらい不動。
何があっても動じない自信がある。
「さ〜て、それじゃぁそろそろ昼食の準備でも……」
僕弄りに飽きたリンは昼食のメニューを思案し始める。
すると……
コンコンッ
玄関の扉を叩く音が。
「誰かしら? はーい」
体を反転させ小走りで玄関へと向かうリン。
『あ――――さん―――しました――』
玄関からリンの声が途切れ途切れに聞こえてくる。
(*´ω`)ぽひゅ〜
しかしこんな時でも僕はマグロ。
でもずっと同じ体勢はキツイので、仰向けからうつ伏せの状態にスタイルチェンジ。
そして顎をソファーの端に置き呼吸を確保。
一切無駄のない必要最低限の動きに留め、体力の消耗を最小限に抑える。
我ながら完璧な動作だった。
妹が家の事をしてくれているというのに、兄である僕はどうでも良いところでどうでも良いスキルを披露する。
でも僕は気にしない。
だって今の僕は……マグロなんだから。
『それで―――――どこに――――』
『――お兄ちゃん――奥に――――』
それにしても、今日の昼食はなんだろうか。
リンの料理の腕も、最近ではかなり上達してきている。
うん、とても楽しみだ。
いやそれよりも、妹が用意してくれるというのが素晴らしい。
普段当たり前のように家事をこなしている僕としては、『働かなくても良い』ということ自体が何よりの至福なのである。
『―――これは――珍しい―――』
『夏場―――――限定で――――』
おや?
リン以外の声が聞こえてくる。
一体誰なんだろう?
「ははー、なんだかシュールっすねー」
「いやぁ…妹としてお恥ずかしい限りです」
まぁ、別に誰だっていいか。
僕には関係ない。
面倒なことは全部リンがやってくれるんだ。
こんな時くらいは、のんびりとくつろいで……
「ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ」
「………」
ソファーの端から顔を出していた僕。
そんな僕の唇を、店長は猛烈な勢いで『ナメ』始めた。
「ぇ……え……?」
「じゅる…………シロさんの味がしたっす」
………
…………
……………
オオオオオォォォォォォォ―――!!(゚ロ゚;w(゚ロ゚)w;゚ロ゚)!!―――ォォォォォォォオオオオオ
「す、すみません店長。お見苦しいところをお見せしてしまって……」
「いやいやー、なかなか新鮮だったっすよー。イイもの見せてもらたっすー」
イチカの訪問から数分後。
一時的とは言えダメ人間と化していたファルシロンはご覧の通り、完全なる復活を遂げていた。
これもひとえに、イチカが機転(ペロペロ)を利かせたおかげである。
「あの、店長…1つ聞いてもいいですか?」
「なんすかー?」
ファルシロンは軽く周囲を見渡し、この場にいるのが自分と狸店長だけであることを確認する。
どうやらリンはキッチンで昼食の準備をしてくれているようだ。
「え〜っとですね…さっきの『アレ』なんですけど……」
「ほむー? 『アレ』ってなんすかー?」
「いや、ですから……」
言葉にしづらい単語に自分の顔が赤くなるのを感じる。
そして意を決すると、
「だからその…さっきの『ペロペロ』は……」
「っすー?」
「…………『キス』の内に、入るんでしょうか?」
「あー……」
「………
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