「あれ? ロザリーさん?」
「あら、偶然ですわね」
大学の帰り。
(自称)許婚のお嬢様と偶然居合わせた。
「お仕事中でしたか?」
「えぇ、町の巡回に出ていましたの。保安部だけでは、目の行き届かない場所も多いですので」
仕事に私情を持ち込まない彼女だが、どんな心境の変化か、どことなく遠い目をしている。
「その口ぶりからすると、レティスさん(保安部所属のダンピール)と一悶着あったみたいですね」
「ふぅ…あなたの言う通りですわ。聞いてくれます?」
ロザリンティアは形の良い乳房を抱え込むように腕組みをし、困ったような表情で語り始める。
「あの百合女ときたら…仕事の話をしていたら、突然わたくしを押し倒そうとしましたのよ!? まったく…なにが『気持ち良く堕としてあげる♪』ですか!」
「あはは。彼女からしたら、ある意味そっちが本業ですからね」
「笑い事ではありませんわ!? わたくしは、先代の血を受け継ぎし高貴なるヴァンパイア! ダンピールごときに堕落させられるほど落ちぶれてはいません!!」
「ま、まぁまぁ。レティスさんも悪気があってやったわけじゃ……」
「もう…素直にわたくしの味方をしてくれたらどうですの?」
「あ、あはは……」
興奮気味のロザリンティアを優しく諭すファルシロン。
そんなどっちつかずの青年に溜め息をつくお嬢様。
「はぁ…もういいですわ。それよりもファルシロン」
「あ、はい?」
お嬢様は青年の腕をガシリと掴み、
「食事に行きますわよ」
「い、今からですか!?」
半ば強引に歩き出した。
レストランにて。
僕の目の前には、恐らく食べ切れないであろう高級料理の数々が並べられている。
でもこれは、後先考えずに辿りついてしまった悲惨な状況ではない。
彼らは近い未来、無事にお嬢様の底なしの胃袋に吸い込まれていくことだろう。
「………」
「……? わたくしの顔に、何か付いていまして?」
「いえ、なんでもありません。ただ、相変わらずの食欲だな〜と」
「フフッ、貴族として当然のことですわ。ですが、これでもお母様の足元にも及びませんの。わたくしもまだまだですわね」
「そ、そうなんですか」
貴族というのは奥が深いなぁ…と感心?してしまう。
まぁそうでなくても、僕自身たくさん食べる人は好きだ。健康的だし。
「90pの大台は数年前に達成しましたが、わたくしは常に上を目指していますの。狙うは脅威の『Jカップ』ですわ!」
「? が、頑張ってください……?」
食事の時間は楽しく過ぎていく。
「ただいま〜」
「あ、おかえりお兄ちゃん。遅かったわね……って、ロザリー?」
玄関に立つファルシロンの背後には、白と黒のフリルミニドレスという極めて派手な格好をしたお嬢様の姿が。
「リン、ごきげんよう。あなた方の自宅でお会いするのは、随分と久しいですわね」
「あ〜、言われてみれば、確かにそうね」
顔は良く合わせているが、多くの場合は屋敷か雑貨店がほとんど。
ロザリーが家に来たのは恐らく5、6年ぶりだ。
「それで、今日はどうしたのよ? 夕食は2人で食べてきたんでしょ?」
「うん、そうなんだけど。良い機会だから、久しぶりに家に寄っていきませんかって誘ったんだ」
「仕事も一段落していましたので、お言葉に甘えることにしましたの」
「そっか。うん、たまにはいいんじゃないかしら」
さぁあがってと客人を出迎える。
ファルシロンもそれに続こうとするが、
「お兄ちゃんは買い出し」
「え」
ポカンとした表情の兄を尻目に、
「紅茶を切らしてるから、イチカさんのところで補充してきて」
「あぁ、そうだったね。わかった、行ってくるよ。えっと……」
「もちろん自腹よ? ロザリー連れてきたのはお兄ちゃんなんだから」
「そ、そうだよね」
兄は財布の中を気にしながら家を後にする。
「気を使う必要はありませんのに」
「いいのよ、紅茶がなかったのは本当だし。ついでよ、ついで」
「まぁ、そういうことでしたら……」
「あぁでも、あんまり期待しない方がいいかもしれないわね」
「? それは、どういうことですの?」
「し〜」
「?」
リンは口元に人差し指を立てる。
そしてその数秒後……
『きゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………』
「!?」
雑貨店の方からファルシロンのまるで女性のような悲鳴が聞こえてきた。
「い、今のは一体何ですの!?」
「何って、お兄ちゃんがイチカさんに襲われたんでしょ?」
「は? 襲われた?」
この場合の『襲う』が『性的』なものであることはロザリンティアも察していたが、何故このタイミングで襲われたのか皆目見当もつかない。
しかもリンはこの事態を完全に予測していた。
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