『魔物と悪魔』

俺の腕は………
俺の左腕は……『悪魔の腕』………

生まれた時から?
わからない………。
物心付いた時に、自分の腕の異常さに気付いた。

親の愛も知らない。
覚えているのは……俺の目の前で血にまみれ、冷たくなっていた両親の亡骸だけ。
そしてその時、自分の左腕に…両親の血が付いていたことも………






とある宿屋の一室にて。

「………」

この町とも…そろそろお別れだ。
少し…長く居すぎた。
早く…出て行かねえと……人を………殺すことになる。

幼少の頃から、俺は各地を転々としてきた。
町に滞在するのは、長くて2ヶ月程。
滞在した町に根をはらぬよう、極力女とは関係を持たないようにしている。
それでも、そんな俺を誘う女は少なくない。
だが、営みを終えた後の女に………心臓の鼓動は聞こえない。
気付けば俺は、その女の首を………息を吸うことを止めるまで締め続ける。
この…『悪魔の腕』で………。
俺の意志じゃない…決して………。
俺の腕が…この……血の滲んだような、どす黒い色をした腕が……勝手に………。

無駄だとわかっている。
自分の…本当の腕を探す旅なんて………。
でも何もせずにじっとしていると……自分を見失いそうで………。
だから俺は旅を続ける。
俺のせいで犠牲になる女がいたとしても………俺は旅を続ける。

自分の…失った左腕を求めて。

明日にはここを発とう。
俺が…人を殺す前に………。
…寝るか……次の町までは長くなりそうだ………。


目を閉じ、眠りにつこうとする…と………
………コンコン
部屋の扉を静かに叩く音。
…なんだ、こんな時間に………
宿の人間じゃない…いや……人間ですらないな………?
扉の前に近づいてくる時、気配をまるで感じなかった。
なぁに………この腕を持ってるおかげで、俺は上級の魔物共に狙われやすいからな………。
これぐらいの感覚を身に付けてねえと………今頃、俺は魔界に住居を移転してるとこだ……。

ギィィィ〜

ゆっくりと開く扉。
さて…今回はどんな魔物が来たのか………
ベットの中で、包帯で厳重に巻かれた左腕を構える。
…こちらに近づく足音。
寝込みを襲ってくる魔物は、これが初めてじゃない。
が………足音は今までに聞いたことがないタイプだ。

とっ……とっ……とっ……とっ……と………

ベットのすぐ傍で歩みを止める。
さぁ…来んなら来いよ………!
受け流しの体勢(カウンター)を敷く俺に、足音の主は………
「罪人よ…明日……迎えに来る………」
そう言い放つ。

!!??
瞬時に起きあがり周囲を確認する…が………あるのは開きっぱなしの扉と、微かに残る女の匂いだけ………。
急いで部屋の外へ出るものの、気配は既に消えた後。

「…………」

もう1日…ここに残るか………








翌日。
なるべく人目につかない様に町の酒場を訪れる。
ちなみにこの店のマスターはホルスタウロス、正真正銘魔物だ。
数年前にこの酒場を継いだらしい。
このマスターには、俺がこの町に来た時から世話になっている。
(余談だが、ここを町と言っているが実は村。 名前はぁ………確かホルン。少し先に広い砂漠があるらしい。)
マスターは俺の境遇を察したらしく、深くは追求してこない。
俺が今まで会ってきた人?の中で、一番気を許せる相手だ。
もちろん特別な感情は無いが………。
そんな彼女に昨晩の出来事を話してみる。

「…『デュラハン』?」
「顔を見てないって言うからぁ、絶対とは言い切れないけどぉ〜」
「けど………マスターはそう思うんだな?」
「そうねぇ〜」
「なら…間違いねえな………」
「確証は持てないのよぉ〜?」
「あんたの勘は…良く当たるからな………」
「んふふ〜♪ 信頼されてるみたいでぇ嬉しいわぁ〜♪」 

そうか…あれがデュラハン………。
神話によると、死の迫る人間に死期を伝えに来る…ってやつだったか………。
まっ…神話は神話だ…所詮そのデュラハンは魔物………。
よもや本当に…俺の死を宣告しに来たわけじゃないだろ………。
なら…なんのために………?

「この村にぃ〜デュラハンの女性が来るのはぁ………たぶん初めてじゃないかしらぁ〜?」
「………そんなに珍しい事なのか?」
「少なくともぉ〜私が生きていた中でぇデュラハンに会ったっていう話はぁ、今まで聞いた事ないものぉ〜〜」
「そりゃぁ光栄だな…稀少な魔物に御対面できるってわけか」

手と同じぐらいの温度になった酒を軽く煽る。

「で……そいつは何をしに来たのか………あんたはわかるか?」
「う〜ん…そうねぇ〜〜〜」

腕を組んで小さく頭を捻るマスター。
立派な双瓜を抱えるような格好になっている。
………
まったく…何を考えてるんだ…俺は………。
マスターは十分魅力的だが…この人を巻き込むわけに
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