「は〜……」
深夜。
ベッドの上には2つの人影が。
1つは、部屋の持ち主であるファルシロンのもの。
そしてもう1つは、
「リン? 溜め息なんかついて、どうかした?」
「……別に、どうもしないわよ……バカ」
「?」
妹の異変を気遣う兄であったが、逆に馬鹿とけなされてしまった。
しかしこの罵倒こそが、妹であるリンの『構ってよ…お兄ちゃん
#9825;』というサインであることを、十数年兄を務めているファルシロンは見逃さない。
そこで、
「リンも今年から2年生だからね。上級生としての立ち振る舞いとか、新しくできた後輩のこととかで、なにか悩んでたりしてるの?」
無難に、今まさに旬の話題を振ってみた。
この手の話ならハズレということはないだろう。
と、思っていたのだが……
「っ……うっさいわよ種馬性欲魔人! 地獄へ落ちろバカアアア!!」
「ぶふっ!?」
言われのない罵詈雑言と共に、そこそこ重量のある枕を顔面に投げつけられ、その衝撃でベッドから転落してしまった。
「い、いてて……」
「まったく…人が気にしてることをズケズケと……!」
運が良いのか悪いのか、ハズレどころか大当りを引き当ててしまった。
だがこの一方的な暴力でさえも、兄にとっては『お兄ちゃん…リンの悩み…聞いてくれる?』という妹の照れ隠しでしかない。
……決して、『ドMな妄想家』というわけではない。
「はぁ……いい? これはお兄ちゃんがどうこうできるような問題じゃないのよ」
「? 僕が対処できない程の大事ってこと?」
「ち、違うわよ! いや、でも…そうなのかも……」
「?」
リンは指の腹で自身の唇をトントンと叩く。
これは妹が何かに対して迷っている時に行う、いわゆる癖の一種である。
この仕草は滅多にお目にかかれないため、『久しぶりに見るなぁ〜』などと、こんなときでもほんわかしてしまうファルシロン。
「……あ〜もう! 話すわよ! 話せばいいんでしょ!?」
「え? あ、あぁ、うん。僕で良ければ聞くけど」
そんなわけで、なんとか妹の悩みを聞きだすことに成功しました。
リンの話は、つまりこういうことだ。
高等部に通うリンは、男女問わず大変な人気者(女帝)である。
そんな彼女の噂は、巷の各中等部にも広く伝わっている(武闘大会準優勝の実績も含む)。
彼女の武勇伝に感化された数多の中等部生徒達は『是非そんな先輩の傘下に!』と、こぞってリンの通う高等部に入学を決める。
新入生が増えるということは、学校側からしても決して悪い話ではない。
だが、良いことばかりではない。
その1つとしては、入学する際の『動機』。
新入生は皆口を揃えて『憧れのリン先輩と仲良くしたい』だの、『先輩に強さの秘訣を教授してもらうため』だの、『彼女に踏まれたい』だのと、明らかに本来の目的からズレている。
しかし現在は5月、不純な動機を持った新入生も高等部の仲間入りを果たした……いや、学校側は時期的に入学を許可せざるを得なかったと言うべきか。
なので、今更動機のことを掘り下げてもあまり意味はない。
それよりも問題なのは、現状。
リンの周囲には100を超える兵隊(一部奴隷)が集結していた。
この部隊はリンを筆頭とした、風神(ローラ)、雷神(アリサ)と呼称される最強の側近2名。
厳選された少数精鋭の近衛兵8名。
周辺警備兼迎撃隊20名。
突撃・偵察隊各30名。
補給兼衛生兵10名。
奴隷?数十名から構成されている。
一体何と戦っているのかは一切不明だが、強大な勢力であることに変わりはない。
現在に至るまで女帝部隊による実害はないものの、教職員達は日々尋常ならざるプレッシャーを感じている。
事の発端であるリン本人は今の状態を大変重く受け止めており、なんとか部隊を解散できないかと頭を悩ませている。
解散宣言をすること自体は簡単だが、自分を慕ってくれる後輩達を無碍に追い払うのは心苦しい。
何か良い策はないか……
と、いうものである。
「冗談のようで厳しい話だね」
「でしょ? だから困ってるのよ……」
これはファルシロンが思っていた以上に難題である。
「まぁ、『リン様〜
#9825;』って敬われるのは嬉しいんだけどねぇ」
「先輩じゃなくて『様』なんだ」
妹に紛れもなく『女帝の資質』があることは自明の理だが、間接的に学校に迷惑をかけているのであれば、それは兄として見過ごすことはできない。
「う〜ん……無理に解散させる必要はないんじゃないかな」
「……お兄ちゃん、あたしの話聞いてた?」
「も、もちろん聞いてたよ」
リンにジットリとした視線を向けられるも、怯まずに続ける。
「要はその部隊を、学校で集結させなければいいわけでしょ?」
「ま、まぁ、そういうことになるわね」
「
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