「あの、店長」
「っすー? 給料なら支払わないっすよー?」
「違いますっ! ま、まぁその件もいずれは話し合うつもりですけど……」
閉店前の雑貨店。
ファルシロンは店内の掃除を、イチカは本日の売り上げを集計している。
「ずっと気になっていたんですけど、店長とロザリーさん…もしかして、仲悪いんですか?」
「こほっ…何を言い出すかと思えばーそんなことっすかー」
イチカは背中をグッと伸ばしカウンターに突っ伏してしまった。
そして気だるそうに顔を上げると、
「シロさんが思ってるほどー険悪な関係ではないっすよー」
「そう、なんですか? 会うたびに悪態ついてる気がするんですけど」
「あー、まー否定はしないっすけどねー」
そう言うと、イチカは再び顔を伏せる。
「自分で言うのもアレっすけどー、うちもお嬢様もーお互い不器用ってことっすよー」
「不器用、ですか」
「目的が同じっすからねー、多少の対立は致し方ないっすよー。それはお嬢様もわかってるはずっすー」
「目的が同じ?」
「………」
………。
あ、僕のことかっ。
「鈍感というかー、ほんと呑気っすよねーシロさんはー」
「す、すみません」
イチカはやれやれと肩をすくめる。
「別にいいっすよー。板挟みにされてオロオロされるよりはマシっすからー」
「板挟みにしてる自覚はあるんですね」
ああだこうだ言っている間に閉店時間を迎える。
「今日も仰山儲けたっすー…けほっ」
「お疲れ様です、店長」
「いやいやーシロさんがいてくれて本当に助かるっすよー(人件費的な意味で)」
「僕なんかで良ければ、いつでもお手伝いしますよ(100%の善意で)」
「………」
「?」
――罪悪感を抱いたら負けっすね。
「あー突然っすけどシロさん、明日は朝一から入れるっすかー?」
「開店前からですか? はい、一応なんとかなりますけど」
「そっすかー。それじゃーよろしくっすーノ」
「わかりました。えっと、何か作業でもするんですか?」
店の奥に引っ込もうとしていた店長は体をクルリと反転させ、
「棚卸しっすよー」
「超重労働じゃないですか……」
聞かなきゃ良かった…と後悔するファルシロンであった。
翌日の早朝。
時たま春の気配を感じる3月とはいえ、さすがに朝は冷え込む。
早くお店に入って暖を取りたいところだ。
(幸いなことに勤め先である雑貨店への通勤時間は10秒にも満たない)
「鍵は……良かった、ちゃんと外してある」
お店の扉が開いているということは、既に店長は起きているということだ。
待たせるのも悪いし、早く入って手伝わないと。
今日1日使っても終わるかどうかわからない作業だ、少しでも早く始めるに越したことはない。
チリン チリン♪
「おはようございまーす」
店内に入って早々に挨拶。
そして数秒後、
「あー、早かったっすねー?」
店の奥から店長が姿を現す。
でも気のせいだろうか、顔がほのかに赤みを帯びている。
「あの、店長?」
「っす〜?」
「もしかして、具合でも悪いんですか?」
「………」
ジットリとした視線を向けられた。
あぁ、なんかこれ久しぶりな気がする。
「べ、別にー悪くないっすよー? ただーちょっと熱っぽいだけっすー」
「本当ですか?」
「……本当っす」
誤魔化し上手の店長にキレがない。
これはもしや……
「すみません、ちょっと失礼しますね」
「………」
店長に近づき自分の手を彼女の額に当てる。
逃げられると思ったけど、何だか拍子抜けしてしまった。
「う〜ん…ちょっと熱い、かもしれないですね」
「だ、だからー微熱だと言ってるじゃないっすかー」
そうは言うものの、近くで見ると店長の顔はやはり赤い。
これはもっとちゃんとした方法で測らないと……あ。
「店長、ジッとしててくださいね」
「ほむ〜?」
ファルシロンは己の額をイチカの額にゆっくりとあてがう。
「っ!」
「………」
イチカの顔がみるみる内に熱を帯びていく。
「あれ? やっぱりさっきより熱い」
「………(プシュ〜)」
イチカの顔が一気に紅潮したかと思うと、
…………ドサッ
突然、倒れてしまった。
「いやぁ、ビックリしましたよ。風邪なら風邪って、素直にそう言ってくれれば良いのに」
「っす〜」
お店の奥の住居スペースに店長を運び込み、そこに布団を敷いて寝かせることにした。
なんだかんだでここに入るのは初めてだ。
「けほ、けほっ…呼び出した本人が〜風邪で動けないなんて〜、言えるわけないっすよ〜」
「もう、水くさいこと言わないでくださいよ。僕は全然気にしてないですから」
「っす〜」
ちなみに僕は今、店長に背を向けている。
というのも、店長は今寝巻にお着替え中
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