「はぁ…おばあちゃん帰っちゃった……」
「元気出しなって。またすぐに会えるよ」
「む〜そうだけどぉ……」
2週間程在住した後、祖母は音もなく僕達の家を後にした。
恐らく夜明け前に出て行ったのだろう。
「帰るなら帰るって言ってくれれば良かったのに……」
「そうやってリンが名残惜しむ姿を、きっと見たくなかったんじゃないかな」
「べ、別に名残惜しくなんて…ぐすん」
なぜ恐らくなのかは聞いての通り。
祖母は僕達に別れのも言葉なく去って行った。
その代わりなのか、居間のテーブルには1枚の紙切れが。
『 帰ることにしたのじゃ
いつまでも厄介になるわけにはいかぬからのう
リンよ、毎日楽しかったぞい
またわしと遊んでくれると嬉しいのじゃ♪
そしてファルシロンよ
お主には1つ土産を置いていくことにしたのじゃ
時間をかけて準備したゆえ、思う存分楽しむのじゃぞ?
それと、馬鹿娘をよろしく頼むぞい 』
メモを残していくところ、やはり母さんと似ている。
そして、このメモについてもう1つ気になることが……
「ねぇお兄ちゃん、結局おばあちゃんのお土産ってなんだったの?」
「いやぁ、それが良くわからないんだよ」
目には見えないモノ。
祖母の土産というのは、きっと物理的なモノではない。
では一体何なのかと問われれば……完全にお手上げである。
「これから何か起こる、とかじゃないかしら」
「あ〜…ありそうだね、それ」
祖母のことだ、時間差で発動する珍妙な魔法でもかけていったのだろう。
土産と言っているあたり、僕達に害を成すモノではないと思うけど…たぶん。
「まぁその内わかることだし、あんまり気にしないでおこう」
「それもそうね」
そう言うとリンは天井に向かって盛大に体を伸ばし、
「う〜〜ん! はぁ…あ〜あ、これで毎日の楽しみがなくなっちゃったわね」
「良く一緒に出かけてたもんね。そういえば、2人でどんな話してたの?」
「んーそうね。お兄ちゃんの事とかお兄ちゃんの事とか、あとはお母さんの昔話だったり…それでまたお兄ちゃん話しとか。あ、1番盛り上がったのはお兄ちゃんの将来についてだったわね」
「僕身内に凄い噂されてたんだね」
「あ! あと簡単な魔法も教えてもらったのよ!」
「ぇえ!?」
「ふふ〜ん♪ いいでしょ〜?」
たたでさえありえない攻撃力の妹が、ついには魔法さえも身に付けてしまった。
リン、君は一体どこまで行くんだ……。
「ま、お兄ちゃんがどうしてもって言うなら、あたしが伝授してあげなくもないわよ?」
「いや、まぁそれはいいんだけど……ちなみにどんな魔法教えてもらったの?」
「簡単なものよ? 風の刃で相手を切り刻んだり、毒で内側からじわじわと弱らせたり…あたしのお気に入りは石化魔法ね! あ、魔法というより呪文かしら、これ」
「(((;゚Д゚)))」
そんなわけで、祖母のサプライズホームステイは慎ましやかに幕を閉じた。
ほんと、長いようで短かった―――――
正午前、雑貨店にて。
「お、お帰りになってしまいましたの!?」
「はい、帰るというメモだけを残して早朝に……」
「わたくしとしたことが…お婆様のために海外から取り寄せた高級品の数々を渡し損ねてしまいましたわ……」
「お婆様を物で釣ろうとするとはーさすがはお嬢様っすねー」
「お黙りなさいタヌタヌ! そういうあなたも、お婆様の情報を秘密裏に探っていたのではなくって?」
「別に悪いことはしてないっすよー。ただーお婆様の好みやら何やらを調べていただけっすー」
「ストーカー紛いの事をしておきながら、良くもまぁぬけぬけと……」
「ま、まぁまぁ。2人共落ち着いて」
この2人の反応から察するに、祖母の存在が如何に大きなものであったかが見て窺える。
確かに店長もロザリーさんも、祖母に対してとても良くしてくれていた。
ほんと、孫としては嬉しい限りだ。
(もう少しだけ時間があれば、お婆様を完全にこちら側にry)
(商人としてのアピールは十分だったっすー。あとはーry)
そこに別の思惑が存在することに、僕は知る由もない。
ところで……
「話は変わりますけど、さっき近所でこんなチラシを受け取ったんですよ」
「チラシ?」
「なんすかなんすかー?」
折り畳まれたチラシを広げると、それを何事かと覗き込む2人。
そして、
「『敵を倒して商品をGET!』」
「『さあ集え!世界の猛者達よ!!』」
「………」
「………」
「………」
沈黙×3。
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