独りじゃない

『お母さん? これ、なに?』
『〜〜〜〜〜』
『卵? でもこれ、大きくて食べ辛そうだよ?』
『〜〜〜〜〜』
『食べないの? じゃぁこれ、どうするの?』
『〜〜〜〜〜』
『え?』
『〜〜〜〜〜』
『ま、魔物の卵なの? こ、怖いよぉ……』
『〜〜〜〜〜』
『仲良くなんて…で、できるわけ……』
『〜〜〜〜〜』
『……ほんとに?』
『〜〜〜〜〜』
『噛んだり、しない?』
『〜〜〜〜〜』
『う、うん』
『〜〜〜〜〜』
『だ、大丈夫……僕、ちゃんとできるよ?』












――15年前。

『ダ、ダメだよオルカ! 食糧庫の食べ物を勝手に食べ……いたっ!?』
『………』
『うぅ……どうしていつも噛みつくんだよぉ……』
『………』
『き、君が悪いことすると…全部僕のせいになっちゃうんだよ?』
『………』
『はぁ…またお母さんに怒られちゃうよぉ……』
『………』
『ねぇ、オルカ? お願いだから、たまには僕の言う事を聞いて……いたっ!?』
『………』
『う…うぅ…ぐす……ふええええええん……』
『……?』












――12年前。

『カイ、遊ぶ』
『うん、いいよ?』
『じゃぁ、掴まって』
『や、やだよ!? また高いところから落とされるに決まってるもん!』
『違う、わざとじゃない。あのときは、少し油断しただけ』
『何に油断したのさ!?』
『いいから、早く掴まって』
『嫌だ!』
『………』
『ちょ、ちょっと!? 引っ張らないでよ!?』
『カイと一緒に空、飛びたい。だから、早く掴まって』
『い、嫌だっ!』
『立派な騎士に、なりたいんじゃなかった?』
『僕の夢とオルカに拉致られるのと何か関係あるの!?』
『もういい。私が掴んでいく』
『い…いやだーーーーー……』












――10年前。

『オルカ! 誕生日おめでとう!』
『〜〜〜〜〜』
『うん、ありがと』
『えっと、オルカは今日で4歳だっけ?』
『〜〜〜〜〜』
『そうだ! 5歳だった!』
『私の歳くらい、覚えておいて』
『う、うるさいなあ! じゃぁオルカは僕の歳がいくつか覚えてるの?』
『10歳でしょ?』
『うっ…ち、違うもん! 9歳か11歳だもん!』
『〜〜〜〜〜』
『ほら、やっぱり10歳』
『お、お母さん! なんで言っちゃうんだよ〜!?』












――8年前。

『カイ、お風呂』
『僕は後でいいよ』
『ダメ。一緒に入る』
『だ、だから後でいいって!』
『カイは1人だと、頭とか背中とか、ちゃんと洗えない。だから私が洗ってあげる』
『子供扱いするなよ!』
『カイは子供。私より背が低い』
『せ、背の高さは関係ないだろ!? というか、年齢は僕の方が上だ!』
『ワイバーンの7歳は、人間で言えば13歳。カイは12歳。だから私の勝ち』
『絶対嘘だ!?』
『そんなことよりカイ、早くお風呂』
『だから1人で入れって!』
『もしかして、恥ずかしい?』
『……な、なにがだよ?』
『私の裸見るの、恥ずかしい?』
『ち、違う!』
『………』
『違うったら違う! オルカの…は、裸なんか…別に興味ないし!』
『そう』
『そ、そうだよ』
『私はカイの裸、興味あるけど』
『ぇえ!?』












――5年前。

『母さん! 騎士学校の案内状が届いたって!?』
『〜〜〜〜〜』
『これで、やっと僕の夢が叶う……!』
『〜〜〜〜〜』
『6年間、全寮制か……』
『カイ、全寮制って?』
『えっと簡単に言えば、卒業までの間学校で暮らす…ってことかな』
『そう』
『あ、そっか。その間オルカは……』
『〜〜〜〜〜』
『え? オルカも一緒に?』
『? 私?』
『〜〜〜〜〜』
『竜騎士、学科?』
『?』












――そして、現在。

「………」
「………」

場所は墓地。
そこには2つの人影が。
1人は青年。
彼は墓石の前で片膝をつき、目を閉じている。
そして、そんな彼の様子を黙って見つめる1人の少女がいる。

「……よし、こんなところかな」
「もういいの?」
「うん、母さんへの報告は大体終わった。あとは……」

青年は少女を見ながら、

「オルカも何か話してあげれば? 母さん、きっと喜ぶよ」
「うん」

少女は彼の言葉通り墓前にしゃがみ込む。

「カイは20歳。私は15歳。カイはいつの間にか、私より大きくなった」
「………」

――声は出さなくて良いんだけど…まぁいいか。

「カイは学校で、えっと…『主席』だって。これは、なんか凄いことらしい」

少女は墓石に語り続ける。

「私もドラゴンの教官に『筋が良い』と言われた……カイ、筋ってなに?」
「才能があるってこと、かな」
「そう。教官にそう言われた」

彼女は表情を変えぬまま、

「……カイ、他に何を話せばいい?
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