14品目 『タイトル名を占領してやるのじゃ!』

「それにしても、2人共随分と大きくなったもんじゃ。たった3年でここまでとは、最近の子供達は発育が良いのう」
「え、えっと……」
「………」

何が、どうなってるんだ?
まずは事の真相を明らかにするべきなんだけど……上手く言葉を発することができない。
リンなんて放心状態のまま固まっている。

「む、なんじゃ? 2人して呆けた顔をしおって」
「あの…本当に、僕達の、その……『おばあちゃん』なんですか?」
「何を言うておる? どこからどう見ても、お主らの『おばあちゃん』ではないか?」
「いやだって、僕達のおばあちゃんは、人間ですし……」

そう、僕の祖母は紛れもなく人間の女性。
しかも数年程前から足を悪くしており、ほとんど寝たきりの状態になっていたはず。
しかし、最後に祖母に会いに行ったのは確かに3年前。
『おばあちゃん』を名乗るバフォメットの主張に矛盾はない。
それに……このバフォメットには、どことなく祖母の面影がある。

「うむ、最もな疑問じゃな」

そう言うと自称おばあちゃんは腰に手を当てて胸(ほとんどない)を反らす。
というか色々と小さい。
身長なんて1mあるかないかくらいだ。

「どうやらわしは、『転生』したようじゃ!」
「て、TEN、SAY?」

TENSAYじゃないな、転生か。
と言われても、正直ピンとこない。

「まぁしかし転生とは言うたが、わし自身も詳しいことは知らん」
「え」
「正確には『気付いたらこんな姿になっていた』、が正しいかのう」

そんなにホイホイ魔物に生まれ変われるものなのだろうか……?

「魔物に襲われた、とか?」
「わざわざ老衰死前の年寄りを? それはないじゃろう。ただ心当たりと言えば、わしが転生する前日に見た不思議な夢くらいかのう」
「夢?」
「うむ。ぼんやりとじゃが、夢のなかでわしは誰かに『お前の願いはなんだ?』と聞かれ、咄嗟に『死ぬ前に孫の顔が見たい』と答えたのじゃ」

おばあちゃん……。

「そして翌朝、気付けばこんな姿になっていたというわけじゃ」
「………」
「確かに初めは驚いたが、悩みだった足の問題が解消され、魔物じゃが若さも手に入れた…わしにとっては願ったり叶ったりというわけじゃ」

ふんすっ、と鼻を鳴らすおばあちゃん。

「おかげで、こうしてお主達に会うことができたのじゃ。わしはとても嬉しいぞい」
「………」

すると、僕の後ろに隠れていたリンが突然、

「おばあちゃん!」

ミノタウロスがタックルするような勢いで、バフォメットの姿をした小さな祖母に抱きついた。

「おばあちゃん…おばあちゃん!!」
「おぉ〜よしよし。バァバはここにおるぞい?」
「うぅ…ぐす……」

子供をあやすようにリンの頭を撫でる祖母。
あの強烈なタックルを平然と受け止めるとは……。

「ずっと会いに行ってやることができなくて、すまんかったのう」
「ううん…ほんとは、あたし達が会いに行くべきだったのに……」
「それはなかなか難しいじゃろうて」

僕達が祖母に会うことができなかった理由。
それは、

「片道『3週間』もかかる距離なんじゃ、仕方なかろう?」
「ぐす……」

長期休暇をフルに使っても間に合うかどうかだ。
ん、ひょっとすると……

「あの、おばあちゃん?」
「なんじゃ? ファルシロン」
「さっき手紙が光ったのって……」
「察しの通り、『転移魔法陣』を使ったのじゃ」

やっぱり。

「でも、あれは古代に失われた魔法ですよね?」
「確かにのう。じゃが、わしを誰だと思っておる?」
「……『覇王バフォメット』?」
「なのじゃ! なりたてホヤホヤじゃがの! あと敬語はやめるのじゃ!」
「あ、うん」

祖母の適応力……。
それにリンのあの様子を見れば、もう決定的だ。

「やっぱりあなたは……」
「何度も言うておろう! わしは正真正銘、お主達の『おばあちゃん』なのじゃ!」












祖母の来訪?から数十分が経過。

「まったく、あの馬鹿娘が……」
「おばあちゃん、お母さんと何話してたの?」
「喧嘩…してないよね?」
「ギリギリ、のう」

祖母は溜め息。

「あやつめ、魔物となったわしを見てこう抜かしおったわ!」

『そのネタ、いただき♪』

「な〜にが『いただき♪』じゃ!? しかも大して驚きもせんかったわ!」
「ま、まぁ、母さんらしいね」

確かに小説家冥利に尽きるネタではある。

「昔から妄想癖があるのは知っておったが、まさかここまで図太いとはのう……」
「でもおばあちゃん、久しぶりにお母さんに会えて嬉しいでしょ?」
「ま、まぁ…そうじゃの」

祖母は照れくさそうに頬をポリポリと掻く。

「じゃが! わしの1番の目的は、リンとファルシロン…お主らに会うことじゃ」
「おばあちゃん!」
「おぉ〜よしよし♪
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