年末の朝。
朝食の準備をする前に玄関先の郵便受けを確認しに行ったときのこと。
「うぅ…さすがに朝は冷え込むなぁ」
もうじき年越しといっても、まだ冬の真っただ中。
しばらくはこの寒さが続くことだろう。
はぁ……寒いのは苦手だ。
「え〜っと…特に何もない、か」
せっかく寒いところを出てきたのに、当の郵便受けには何も入っていなかった。
「……は〜」
思わず溜め息。
ちょっと損した気分になった。
「そうだ、早く朝食つくらないと」
母さんとリンが起きてくる前に準備しておきたい。
いや、そもそも母さんは寝てないか(※母親は人気小説作家)。
「待つで御座る、ファルシロン殿」
「え?」
家に戻ろうとしたところを突然後ろから呼び止められた。
「あれ、シノブさん?」
「こうして顔を合わせるのは、随分と久しいで御座るな」
玄関先に立っていたのは、郵便局員兼配達員のシノブさんだった。
彼女は『クノイチ』、正真正銘魔物の女性だ。
「お久しぶりです。たぶん半年ぶりじゃないですか?」
「良く覚えているで御座るな」
「忘れるわけないじゃないですか。シノブさんは、この町でたった1人の郵便局員ですよ?」
「おかげで十分に稼がせてもらっているで御座るよ」
彼女は郵便局員である一方、この町の住人でもある。
ではなぜ同じ町の住人が半年もの間顔を合わせることがなかったのか。
それは、彼女の仕事内容に隠されている。
「相変わらず『早朝と深夜』の配達ですか?」
「そうで御座る。自分、人前に姿を晒すことが苦手なので御座るよ」
「まぁ、『忍』としては正解ですよね」
「おかげで年末までに住人と顔を合わせた回数は、10にも満たないで御座る」
「じゃぁ運がイイですね、僕」
「自分に出会えたら幸運、ということに御座るか?」
「そういう見方もできますよね」
「幸運を呼ぶ忍者……ふむ、なかなか良い響きで御座るな」
しばし談笑した後。
「む、そうで御座った。ファルシロン殿にコレを届けにきたで御座る」
「ありがとうございます」
シノブさんから受け取ったのは1通の手紙。
「珍しい紙質に御座る。恐らく、かなり遠方からの報せでは?」
「………」
「? どうかしたで御座るか?」
「あ、あぁいえ。この字体、どこか見覚えが……」
そう、どこかで―――――
朝食の席にて。
「ねぇお兄ちゃん」
「ん、なに?」
「その手紙って、もしかして……」
「あ、やっぱりリンも気付いた?」
そう、先程シノブさんから受け取ったこの手紙の送り主は……
「『おばあちゃん』から!?」
「そうみたいだね。朝食の後リンと一緒に読もうかと思って」
「い、今すぐ! 今すぐ読みたい!」
「ま、まぁ落ち着いて」
かなり食い気味に祖母からの手紙を要求するリン。
妹は昔からおばあちゃん子だったからなぁ。
「お兄ちゃん!」
「た、食べ終わってから!」
「うう〜〜」
犬みたいに唸り始めた。
「早く見せないさいよアホンダラ!!」
「アホンダラ!?」
馬鹿と言われることは日常茶飯事だけど、アホンダラは初めてだ……。
「わ、わかったよ、ほら」
「ふんっ! 始めから素直に渡しなさいよね!?」
「………」
僕の妹は、たまにキツイ。
「♪」
「( ´ー`)」
機嫌良さ気に封を切るリン。
その様子をヤレヤレといった感じで眺める僕。
折り畳まれた状態の手紙を取り出したリンは、しばし沈黙。
手紙の内容に目を通しているんだろう。
「………」
そして、
「ふぅ」
「ん、なんて書いてあったの?」
僕も内容が気になるわけで。
「かいつまんで話すわね」
「うん」
………。
「何も書いてなかったわ」
「……え?」
何も、書いてない?
というか、かいつまむ程の内容でもないし。
「ど、どういうこと?」
「あたしが知るわけないでしょ!? ほら、見てみなさいよ!」
僕はリンから手紙を受け取る。
するとそこには、
「………」
確かに、何も書かれていなかった。
「せっかくおばあちゃんから手紙が来たと思ったのに! イタズラ!? 一体誰の仕業よ!?」
「いや、少なくともイラズラではないと思う」
「どうしてわかるのよ!?」
「これを届けてくれたのはシノブさんだった。あの人が中身を紛失したり、ましてや郵便物にイタズラされるような不手際を起こすとは考えられないよ」
「そ、それは……そうかも」
となると、この真っ白な手紙には、何か他の意味があるのかもしれない。
「う〜ん…母さんに見せるべきかなぁ」
「そう、ね。お母さんなら、もしかしたら何か知ってるかも」
「うん、そうだね」
仕事の邪魔をするのは申し訳ないけど、これはさすがに気になる。
そして、早速見せに行こうと席を立った瞬間……
「
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