チュン チュン
「ん……」
目覚めると朝。
窓の外からは小鳥のさえずりが聞こえてくる。
昨日は、本当に長い1日だった……。
「んん〜」
仰向けのままグッと体を伸ばすと、全身からは小気味良い音が。
これをしないと完全に目が覚めない。
寝起きスイッチとでも名付けようか。
「……よし、朝食の準備だ」
そうしてベッドから降りようとすると……
ムニュン♪
「ぁ…ん……///」
妹、リンのお尻を鷲掴みにしてしまった。
「ぅん…ん〜……zzz」
「っ……」
……そうだ。
昨晩、帰宅が遅いことを理由に「罰として、あたしと一緒に寝てもらうんだから! 拒否権? あるわけないでしょ馬鹿!!」と言われた事を思い出した。
「zzz」
「はぁ」
別に罰じゃなくても、朝起きたらリンが隣で寝ていることは良く……いや、頻繁にある。
しかも、下着の上から僕の愛用するシャツを着るという、かなり大胆な格好でだ。
白くスラリとした妹の足には…相変わらず目のやり場に困る。
まぁ、今回は僕に非があったから素直に言う事を聞いたけど……。
………。
あ、お尻を触ってしまったことは伏せておこう。
後が怖そうだ。
「zzz」
さて。
それじゃぁ、リンを起こさないようにゆ〜っくりと静か〜に……
ギュッ
「……あ」
リンに寝巻の裾を掴まれてしまった。
「リン、寝ぼけてる?」
「zzz」
やれやれと思いつつ、リンの手を裾から離そうとするが……
「あ、あれ? この…く、ぐおおお……!」
「zzz」
ふぅ…無理そうだ。
にしても、相変わらずの剛力。
無意識とはいえ末恐ろしいモノを感じる。
「よし、こうなったら……」
奥の手を、使うしかないようだ―――
「ん…おにぃ、ちゃん……zzz」
リンは兄の寝巻に顔を埋め、気持良さそうに眠っている。
「じゃあなシロン! 休暇明けにまた会おうぜ!」
「シロン? 手紙、また書くから、ね?」
「地元の特産品、たっくさん送ったげる!」
「うん。みんなも元気で!」
大学はこれから長期休暇に入る。
ほとんどの学生は自分の故郷に帰るため、またしばらく会えなくなってしまう。
僕の友人達も例外ではなく、皆としばしの別れを告げる。
「さて、僕はこれからどうするかなぁ」
なんて呟いてみる。
でも実際は解決すべき問題が山積みだ。
例の雑貨店での無給御奉仕や、現領主様の娘ロザリーさんとの結婚騒動。
母親の原稿締切前仕事部屋引き籠もり断食週間やリンの添い寝問題等々。
1つ1つの問題が地味に重い。
「とりあえず帰ろう」
歩きながら思考を巡らせる。
どの問題を優先すべきか、もう1度良く考えてみよう。
――まずは母親だ。
まぁこれは母さんの職業病というか、仕事柄仕方ないというか。
少し心配だけど、ともかくこれについては僕の関わるところではない。
幸いにも食事だけはちゃんと摂ってくれるから、栄養のあるものを食べさせてあげないと。
――次は無給御奉仕。
う〜ん……もうしばらく働こう。
せめて1ヶ月は店長に奉仕しないと。
――そしてリンの添い寝。
これも昔からの習慣なのか、リンは16歳になった今でも僕と一緒に寝ようとする。
リンが好きでやっていることなら、別に僕が文句を言う筋合いはないんだけど…世間体を考えるとそういうわけにもいかない。
それでその事をリンに告げたら……大変な目にあった。
体中の関節という関節を外されたことが記憶に新しい。
というか、キッカケはなんだったかなぁ?
……あぁ確か、僕が7歳の頃だったかな。
激しい雷と大雨の降りしきる夜。
母さんは相変わらず仕事部屋に籠もって小説の執筆に勤しんでいた。
でも僕は気にせず、自分の部屋のベッドで本を読んでいた。
母さんは普段から僕達兄妹をあまり構ってはくれなかった。
でもそれは、女手1つで僕達を育てるために、必死だったから。
たぶん僕は、そんな母さんを心の底でちゃんと理解していたんだと思う。
しかし、4歳になったばかりの妹には…まだ難しかったんだろう。
リンは良く僕の傍で泣いていた。
『ぅぅ…ひっく……おにぃ、ちゃん? お母さん、は?』
『お母さんはお仕事だよ』
『お母さん…リンの、こと…嫌いなの?』
『そんなことないよ』
『ひっく……ほんと?』
『うん。僕が嘘ついたこと、今まであった?』
『……ない』
『お母さん忙しいみたい。リン、僕の部屋で寝る?』
『……いいの?』
『風と雷、怖いんでしょ?』
『……うん!』
あぁ……想い出した。
確かにあの晩、そんな会話をリンとしていた記憶がある。
懐かしいなぁ……。
………。
おっと、過去に浸るのはここまでにしよう。
それでだ、恐らくこれがリンの添い寝の起源であると考えられる
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