「………」
兄が、帰ってこない。
でも所在がわかっている分まだマシだ。
きっと、バイト先(雑貨店)でなにか立て込んでいるんだろう。
しかし、それにしても……
「……遅い!!」
妹のあたしに夕食を作らせておきながら……何たる仕打ち!
もう待てない。
――乗り込んでやる!
向こうの事情なんて関係ない。
いくら『モフモフ』が素敵なイチカさんでも、兄をこんな時間まで束縛して良いはずがない。
「もう! お兄ちゃんの馬鹿!」
いや、本当に悪いのはイチカさんではない。
9割9分の割合で馬鹿な兄のせいだ。
………。
別に、兄が心配というわけではない。
これは……そう! 夕食が冷めてしまうから。
せっかく作ったあたし特製の料理が、冷え切った状態で兄の口に入るのが許せない。
わかった?
決して、個人的な感情は、介入していない。
決して、兄を独占したいなんてことは、ない。
家を出発…………雑貨店到着(この間約5秒)。
さて、どうしたものか。
たまには兄に対して強く反発してみるのも悪くない。
――よし! 突入!
罰として、今夜は一緒に寝てもらう。
もちろん……兄のベッドに2人で。
バンッ!!
「ちょっとお兄ちゃん! 一体いつになったら…帰って……」
雑貨店にあるまじき異様な光景を目の当たりにした。
兄は正座し、イチカさんは腕組みしながら仁王立ちしている。
「イイ加減正直に吐くっすー」
「だ、だから…ロザリーさんはただの幼馴染なんですってば!」
「嘘臭いっすー。ただの幼馴染が許婚とかー信じられないっすー」
「いや、ですからそれは……」
「口答えは許さないっすー」
「ぇえ!?」
………。
とても、切ない気分になった。
「はー、本当に幼馴染なんすかー」
「そうなんです。あたしにとっては姉みたいなものですけどね」
リンが店の様子を見にきてくれたおかげで、どうにか店長の誤解?は解けた。
「元々は親同士の交流がキッカケで知り合ったんです。お兄ちゃん、いつ頃だっけ?」
「えっと、確か僕が5歳のときだったと思う」
「14年くらい前ってことね」
「けっこう古いっすねー」
ロザリーさんと出会ってから、もう14年も経つんだ。
小さい頃、隙を見ては僕の首元に噛みついて吸血してきたっけ……。
とても色々な出来事があった気がする……ほんと、色々。
「あたし達の母は、そこそこ有名な小説家なんです。それで、母の執筆した作品がたまたま領主様の目に留まって……」
「気に入られたわけっすねー」
正確には気に入られるというより、僕の母と領主様が『友達』になったと言う方が正しいかもしれない。
正直太いパイプを持っている…と思ったことはない。
むしろそのまま、家族同士の付き合いといった感じだ。
「お嬢様との関係はー良くわかったっすー」
「じゃぁ店長、僕はこの辺で……」
「まだー大事なところだけ聞いてないっすー」
「ぶふっ」
話を切り上げようとした僕に、店長は遠心力を利用した尻尾ビンタをおみまいしてきた。
すごく、モフッとした。
そして、リンが羨ましそうな表情でこちらを見てくる。
「でー、許婚とはーどういうことっすかー? 成人で結婚ってー何なんすかー?」
「結婚? お兄ちゃん、もうそんな話になってるの?」
「いや、結婚は僕も初耳」
「? どゆことっすかー?」
「僕も知らなかったんです。どうやら、領主様主軸で勝手に話が進んでるみたいで……」
「ロザリーが許婚って騒いでるのは14年前からだけど…まさか、本当に実現するなんて……」
「あーなるほどっすー。2人にとってもー不測の事態ってことっすねー」
そう、その通り。
まぁ不測の事態というのは、あちら側に大変失礼な言い回しかもしれないけど……。
ともかく、結婚の件に関しては当事者である僕もさすがに驚いた。
「ねぇお兄ちゃん?」
「ん、なに?」
「ロザリーとの結婚って…要するに『アレ』よね?」
「『アレ』?」
「えっと、なんて言えばいいのかしら……」
リンは自分の唇を指の腹でトントンとしながら言葉を選んでいる。
この行動は妹の癖。
たぶん動揺しているんだと思う。
「だから、お兄ちゃんが……」
「うん、僕が?」
「………」
一息。
「この町の『領主様』になるってことよね?」
「……は?」
「だってそうじゃない! ロザリーは領主様の娘よ? お兄ちゃんがあっちに婿入りするってことは……」
「いずれはー、領主の座をー受け継ぐことになるっすねー」
「………」
……え?
「ええええええええええええええええええええ!?!?!?」
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ただあま
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